本年度も昨年に引き続き、古典期アテナイ(前5-4世紀)の公職者制度、特に財政における公職者の役割について、並びにヘレニズム期以降(前4世紀末以降)の公職者顕彰制度について研究を進めた。特に用いた史料は伝アリストテレス『アテナイ人の国制』やアッティカ法廷弁論といった文献史料、および決議碑文や会計報告碑文といった碑文史料である。 加えて、本年度はアルカイック期(前8-6世紀)まで研究の射程を広げた。中でも、ソロンの改革(前6世紀初頭)以前のアテナイ社会や公職者制度を考える上で避けて通ることのできないゲノス(従来「氏族」と訳されてきた)の問題に関して研究を進めた。特に着目したのは「デーモティオーニダイ決議」ないし「デケレイエイス決議」と呼ばれる碑文史料である。この碑文はフラトリア(擬似的血縁原理に基づいたポリス下部集団)の3つの決議を記録したものであるが、従来アルカイック期のアテナイ社会を知るための手がかりとされてきた。 2017年3月に歴史学研究会西洋古代史部会例会における口頭報告では、上記決議碑文の解釈のための前提に関するE.Carawanの新説を検討した。そして、アルカイック期アテナイ社会、公職就任を含めたゲノス成員の政治的権力の様相についての見通しを示した。 また、京都大学にて開催されたギリシア碑文研究会に参加した。来日中だった外国人研究者も参加しており、碑文学に関する世界レベルの最新の研究成果を学ぶことができた。国内の各種学会・研究会にも積極的に参加した。
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