研究課題/領域番号 |
14J10649
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森下 哲典 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 酸素還元反応触媒 / 金属ナノクラスター / 密度汎関数法計算 |
研究実績の概要 |
燃料電池正極の酸素還元反応の触媒として現在白金が使われているが、白金は稀少金属であり代替触媒の開発が求められている。これまで実験を中心に触媒開発が行われてきたが、未だ代替触媒は見つかっておらず、白金の触媒性の起源にさかのぼって理論に基づいた触媒開発をする必要がある。 そこで、酸素還元反応の触媒性を示す白金と触媒性を示さない金と銅について、13原子からなるナノクラスターを作成し、酸素吸着させた計算を行い、その反応の違いを解析した。その結果、元素によって吸着状態が異なることが分かった。金の場合、酸素と金の分子軌道は相互作用しておらず、銅では、銅の占有軌道が酸素中の電子と相互作用していた。一方、白金の場合、白金の非占有軌道が酸素の不対電子と相互作用することにより酸素が吸着し、さらに結合性軌道が広いエネルギー域に存在していた。以上のことから、白金特有の反応機構として、白金の非占有軌道が酸素と反応し酸素と白金の間の電子が非局在化していることが挙げられ、これが触媒性発現に重要であると考えられる。 次に、金属ナノクラスターのサイズや元素の違いによって電子状態がどのように変化するかを調査した。白金代替触媒を設計するためには、金属ナノクラスターの電子状態に関する知見を得ることは重要である。 白金について、13量体と55量体の対称性の高い構造とアモルファス構造を計算した結果、アモルファス構造の方が安定であることが分かった。また、各種元素のナノクラスターの計算を行ったところ、特にd軌道が立ち上がるエネルギー準位が大きく異なることが分かった。白金やパラジウムはフェルミエネルギー付近に大きなd軌道の状態密度を持つのに対し、その他の元素では、フェルミエネルギー近傍にs軌道が存在し、d軌道が低いエネルギーにある。このフェルミエネルギー近傍のd軌道の多さが触媒性に重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、酸素還元反応の電子状態解析から、白金が持つ触媒として重要な要素を抽出することを主にやってきた。その結果、他元素とは異なる電子状態が明らかになってきた。この解析は本研究の根幹であり、新規触媒設計の指針となるため最も重要である。今後、材料の設計に進むことが可能になったため、順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析から得られた理論に基づき、新規触媒の設計に進む。そのためには、軌道のエネルギーと種類をいかに操作するかが鍵になるため、引き続きクラスターの電子状態解析を進めていく。これまでは単元素のクラスターを計算していたが、今後は合金系の計算をすることにより、主となる元素にその他の元素が与える電子状態の影響を明らかにする。本年度の解析から明らかになった触媒に求められる電子状態を満たすように材料を設計し、これまでのように酸素を作用させて酸素還元反応の計算を行うことにより、設計した材料が有効であるかを確認する。 ここまでは計算による試行錯誤であるが、実際に材料を作ることが重要である。よって、ある程度材料の方向性が固まった段階で、実際にナノクラスターの作成に移る。これにより、自分が立てた理論の証明も行う。
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