固体高分子形燃料電池はエネルギー効率が高く、有害物質を排出しないことから、自動車の動力源やコジェネレーションシステムとして注目されている。しかし、正極の酸素還元反応の触媒として、現在稀少金属である白金が使われているため、代替触媒の開発が求められている。これまで実験を中心に触媒開発が広く行われてきたが、未だ代替触媒は見つかっておらず、白金の触媒性の起源にさかのぼって、理論に基づいた触媒開発をする必要がある。 昨年度まで行っていた、金属ナノクラスター上への酸素吸着の計算結果について、新たな解釈で結果を考察した。さらに、その解析結果に基づいて新たな触媒の設計を行った。 まず、13量体の金属ナノクラスターへ酸素が吸着した状態の分子軌道を詳しく解析した。触媒性がある白金の場合と、触媒性がない金と銅の場合を比較した結果、金属のd軌道と酸素の2pπ軌道で形成するMetal-O π*軌道が、非占有軌道中のフェルミエネルギー付近に存在することが触媒性に重要であると分かった。この軌道がフェルミエネルギー付近に存在することで、電極から触媒への電子流入が引き金となり、酸素の解離と脱離の両方が進行していくと考えられる。さらに、触媒性を判断する基準として、このMetal-O π*軌道に注目すると、シェルにNbを、コアにZnを配置したcore-single shell Nb42Zn13では、Nb55に比べ、このMetal-O π*軌道のエネルギー準位が低下し、フェルミエネルギーに近づくことが明らかになった。つまり、ZnをNbの背後に配置することで、酸素吸着時の電子状態が白金の場合に近づくということを示している。これらの元素の組み合わせによる触媒はこれまで提案されておらず、Metal-O π*軌道に注目することで導かれた新規触媒である。
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