人を含む動物一般は,将来に与えられる報酬や罰よりも現在の報酬・罰を選択する傾向がある。このような時間の経過によって価値を過小評価する現象を時間割引とよぶ。本研究ではサイコパシーの将来に対する認知および行動傾向を調べることを目的としているため,将来志向的行動に必要とされる展望的記憶のほかに,サイコパシーの時間割引を調べることによって将来に対する認知を検討した。その結果,高サイコパシー傾向者は低サイコパシー傾向者に比べて時間による価値の減少率が小さいことが示された。以前に行った質問紙調査においてもサイコパシー傾向の高い者は展望的記憶の失敗経験が少ないと報告していたことから,将来志向的な認知は高サイコパシー傾向者の方が得意である可能性が示唆された。 さらに展望的記憶を実験的に検討するために,予備実験を行った。従来の展望的記憶課題では,ワーキングメモリを測定しているのではないかという批判があり,展望的記憶を正確に測定できていない可能性があった。またサイコパシーの障害は優勢となった行動を上手く切り替えることができないためであると唱える理論もあり,背景課題を行いながら展望的記憶課題を行う場合,展望的記憶の失敗が,ターゲットを見て展望的記憶を想起できなかったのか,ターゲットに注意を向けていなかったのかが分離できない。そこで,背景課題中に展望的記憶としてのターゲットを呈示する事象型展望的記憶課題ではなく,背景課題を終えた後に展望的記憶課題を行う,行為型展望的記憶課題を作成し,予備的に実験を行った。実験参加者の人数が十分ではないため,詳細な分析は行っていないが,現在のところ,サイコパシー傾向の高低による展望的記憶の違いは小さいようである。
|