研究実績の概要 |
サイコパシーの展望的記憶を実験的に検討した。従来の展望的記憶課題にはいくつかの問題点があったため,本実験では背景課題を終えた後に展望的記憶課題を行う,行為型展望的記憶課題を作成し実験を行った。サイコパシー傾向の高低によって群分けし, 展望的記憶成績について対応のないt検定を行ったところ, 有意な差は確認されなかった(t(36) = 0.199, p = .843)。このことから,サイコパシー傾向が高いものでも展望的記憶の使用について一般群と差がないことが示唆された。 展望的記憶課題とともに,罰学習の成績も検討し,サイコパシーの特徴である罰学習の失敗が将来志向的行動と関連しているかどうかを調べるために課題を設定した。先行研究で扱われているGo-NoGo課題をベースとした報酬・罰学習を行い,さらに強化学習モデルを用いてサイコパシーにおける学習の計算論的特性を検討した。その結果,学習成績には差がなかったが,強化学習モデルにおける学習率についてサイコパシー傾向の高い群の方が低い群に比べて学習率が低い傾向にあった(F(1,24) = 3.280, p = .083)。この結果は日本心理学会第79回大会において発表された。 先行研究の知見から,サイコパシーは罰学習に問題があると考えられるため,罰に対する学習率が低いと予想された。しかし学習課題の結果から,サイコパシー傾向が高いものは学習率が全体的に低かった。強化学習モデルによるシミュレーションを行った結果,同じ学習率でも,報酬と罰が与えられる場合では学習の程度が異なっており,特に学習率が低い時にその差が顕著であった。このことから,一般群は学習率が比較的高いので,報酬と罰による学習の差は小さいが,サイコパシー傾向の高いものは,全体的に学習率が低いため,報酬学習と比べて罰学習の成績が低くなっていたのではないかと考えられる。
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