三年計画の最終年に当たる本年度は、前年度に引き続きフランス・パリに滞在して現地調査を重ねた。具体的に行った作業は主に以下の内容からなる。 1.フランスのゴシック建築の壁内通路の実地調査を実施した。そこでは壁内通路内部にある金属部材の記録や、天井部と床面の石積みの観察、足場固定に用いられたと思われる穴や職人が石に刻んだサインの記録などを主に行った。さらに詳細な調査が実施できた建築では、通路の構成部材(円柱、アーチ)及び通路の幅や高さをシステマティックに実測し、グラフを用いて統計的に分析することによって、建設の現場組織に関する知見を得ることができた。特に、ノワイヨン大聖堂では、壁内通路の小円柱の高さの規則性を分析することによって、建物の各部分の時代的な違いだけでなく、建設に携わった職人集団の個性の違いをも明らかにすることができた。より後に建設されたからといって技術的にも洗練されているとは限らないという事実は、中世における技術の進歩や中世の職人集団の一様性に関する従来の考え方に留保をつけるものといえよう。 2.前年度に調査を行ったブリ=コント=ロベールの教会堂の壁内通路に関して、パリ国際大学都市日本館において研究発表を行った。その際今年度調査したアルクイユの教会堂と比較して分析することで、屋根裏と建物内部を隔てる壁の存在意義について検討することができた。 3.パリ国立図書館や建築文化財資料館における文献調査・修復資料の収集は一貫して行っている。 初年度の資料収集と前年度・今年度の実地調査により、ゴシック建築の壁内通路の構築と技術を理解するためのメインとなる作業はおおむね完了したといえる。今後、適宜個別の成果を学術論文として発表すると同時に、得られた結果を総合し博士論文へとまとめていく予定である。
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