研究課題/領域番号 |
14J10683
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
浦川 哲 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 透明酸化物半導体 / プリント手法 / 論理回路 |
研究実績の概要 |
本研究では高速・低消費電力かつ溶液作製が可能な酸化物半導体(TAOS)と,その作製技術に印刷技術を提案する.そして, TAOSによるオールプリンテッドな集積回路の作製を可能にすることで,フレキシブルコンピュータの実現を目指す. 本研究で行うプリンテッド集積回路の作製には,スイッチング素子の1つである薄膜トランジスタ(TFT)が必要不可欠である.そのTFT材料には溶液作製が可能なa-InZnOを用いて作製を行うが,「TFT回路の設計」そして「プリント手法への適用」が重要であり,本研究ではその2点の課題解決に取り組んだ. 1.「TFT回路の設計」:広く使用される相補型CMOS回路ではN型とP型の半導体が必要である.しかしながら,N型のTAOSはP型作製が困難であるという欠点があり,CMOS回路を適用できない.そのためN型TAOSだけで作製可能な回路構造を新たに構築した.論理回路の1つであるNAND回路を8つのTAOS-TFTで作製し,その特性を評価した.その結果,[1:1:1:0]のNANDの論理出力が得られ,さらに従来型のNAND回路に対して2倍の動作速度を可能にした.この結果は学術論文として報告した. 2.「TAOS-TFTのプリント化」:1.で決定した論理回路をプリント化するためには,TFTの半導体層,電極層および絶縁層をそれぞれプリント化する必要がある.本研究では,まず初めにTAOSの一種であるa-InZnOを塗布法でプリントし,電極として銀ナノペーストをスクリーンプリント法で形成した.半導体層および電極層をプリントしたa-InZnO TFTは明確なONとOFFのスイッチ動作を示した.この結果は国際学会において報告し,ポスター賞を受賞した. シート状フレキシブルコンピュータの実現に向けて,今後も1.「論理回路設計」および2.「TFTのプリント化」に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では,1年目にプリンテッドTFTの作製を行い,2年目に論理回路の構築を行う予定であった.しかし現在まで,それぞれの課題を同時並行で行う中で,2年目の論理回路の構築は既に終えており,3年目の計画であるオールプリンテッド集積回路への作製に着手できる状態にある.さらにこれまでの結果は学会発表で2件報告しており,そのうちの国際学会ではポスター賞を受賞し,さらに論文1報の執筆を終え現在投稿中である.この研究課題遂行能力は,申請者の持つ幅広い知識と技術によるものと考える.申請者は研究達成に必要な知識や技術を自ら見出し,課題解決にむけて積極的に情報を取り入れていく姿勢を欠かさない.研究内容においても,回路設計からシミュレーション,作製と評価を一貫して行うことができるため,目標とするデバイスを実現するための課題と解決方法を明確に示すことができる.よって本研究が目指すオールプリンテッド集積回路への実現も今後可能であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究実現を目指して,高速動作かつ溶液作製が可能な透明酸化物半導体(TAOS)に着目し,デバイスにはスイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT)を適用する.作製手法にはプリント手法を用いてプリンテッドTAOS-TFTを作製し,論理回路を組むことでフレキシブルコンピュータにおける計算回路の作製を行う.そのために以下の1.「TAOS-TFTのプリント化」,2.「論理設計」,3.「デバイス作製」にそれぞれ取り組む
1.「TAOS-TFTのプリント化」:下部電極,絶縁膜,TAOSと上部電極の4層が必要であり,前年度はTAOSおよび上部電極層のプリント化を行った.オールプリントを目指して本年度は絶縁膜および下部電極層のプリント化にも着手する.さらに,電極層には銀材料を用いてきたが新たに銅材料を用いてより低コストなデバイス作製の実現を目指す.作製したデバイスは電気特性の評価を行い,その動作速度の解析と信頼性の評価,さらには各種層の界面状態を解析することで,最適な材料選択を見出す. 2.「論理設計」:本研究で着目した回路は基本論理回路であるNAND,NORおよびNOT回路である.これら基本回路は研究目的であるフレキシブルコンピュータに搭載する集積回路内部の計算処理で必要な要素であり、そのプリント化が可能になれば研究目的の達成に近づく。また,前年度にはそのレイアウト設計を完了し,既存の真空プロセスによるTAOS-TFTを用いて論理特性を実証した.本年度は1.によるプリントTAOS-TFTの特性に基づいて,構築した論理回路レイアウトにTFTを適用する. 3.「デバイス作製」:2.で構築したTAOS-TFT論理回路を用いて小規模の集積回路を作製し,デモンストレーションを行う.基板にはプラスチックフィルムを,作製にはインクジェットを用いて,より簡単に高速に作製し,折り曲げられるデバイスを提示する.
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