研究課題/領域番号 |
14J10694
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
大塚 美穂 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 分子動力学計算 / 溶媒水分布 / ルテニウム錯体 / DNA 挿入構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、DNA 挿入下における Ru 錯体の発光強度の要因について、錯体と塩基間および錯体と溶媒水分子間の相互作用に着目して考察し、ミスマッチ塩基対の検出に活用可能な Ru 錯体の設計指針を理論的に示すことである。初年度となる平成 26 年度は、ミスマッチ塩基対挿入錯体(MM)と適正塩基対挿入錯体(WM)のそれぞれを対象とした分子動力学(molecular dynamics: MD)シミュレーションを行った。 錯体の挿入構造について、MM の方が Ru-P 距離が短く、オリゴヌクレオチド鎖に対してより深くまで挿入していることが分かった。また、MM は P-P 軸に対して直角(88°)に挿入するのに対して、WM は 64° の角度をもつことが分かった。これらの構造の違いは、錯体と塩基の相互作用に影響すると考えられる。錯体と塩基間の相互作用エネルギーについて、平成 27 年度に FMO 計算を遂行して考察する予定である。 dppz 配位子上 phz の窒素原子(Nphz, N’phz)まわりの水分子の分布について、動径分布関数(N-Hw)を比較した。Hw は水分子の水素原子を表す。N’phz-Hw では MM と WM の間に大きな差は見られないが、Nphz-Hw では WM の方がピークの立ち上がりが早い、つまり水分子が近づき易いことが分かった。このことは MM では水分子からの攻撃を受けにくいために発光強度が大きいという実験研究の考察と矛盾しない。 平成26年度に得られた結果は、50th Symposium on Theoretical Chemistry 2014 Quantum Chemistry and Chemical Dynamics(ウィーン,オーストリア)、分子科学討論会(東広島)、分子シミュレーション討論会(仙台)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、ルテニウム錯体と溶媒水分子の相互作用について、分子動力学計算を行い解析を進める計画であった。その計画通り、ミスマッチ塩基対挿入錯体と適正塩基対挿入錯体のそれぞれを対象とした分子動力学計算を行い、動径分布関数を解析し、水分子との相互作用において重要とされる錯体の dppz 内窒素原子まわりの水分子の分布を調査することができた。また、錯体の挿入構造について、ミスマッチ塩基対挿入の方が Ru-P 距離が短く、オリゴヌクレオチド鎖に対してより深くまで挿入していることが分かった。これらの理論計算結果は、「ミスマッチ塩基対挿入錯体は適正塩基対挿入錯体に比べて、ポリヌクレオチド鎖に対して深く挿入し、水分子からの攻撃を受けにくい」という実験的な考察に対して、錯体の挿入構造および溶媒水分布の観点から、それを支持するものである。 さらに、その成果を国際学会および国内学会にて発表することができた。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、錯体と塩基間の相互作用や励起状態を明らかにすることで、さらに研究を発展させていく。Fragment molecular orbital (FMO) 計算を行い、錯体と塩基間の相互作用について、ミスマッチ塩基対挿入と適正塩基対挿入の間で比較考察する。2体のフラグメント間相互作用エネルギーを、静電、分極、交換反発、電荷移動などの成分に分割して解析することができる pair interaction energy decomposition analysis (PIEDA) を活用する。また、time-dependent DFT 計算を行い、錯体の励起状態について、ミスマッチ塩基対挿入と適正塩基対挿入の間で比較考察する。 計算環境には分子科学研究所のスパコンを用いる。得られた結果をまとめ、学会で発表する。
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