研究課題/領域番号 |
14J10704
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栄村 弘希 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 自己組織化 / 物理ゲル / 液晶 / 有機ラジカル |
研究実績の概要 |
機能性有機材料の構築において、ナノからマイクロメートルレベルの構造が自発的に組み上がる自己組織化プロセスの活用が省エネルギー・環境低負荷・精密機能発現の観点から注目を集めている。当研究室では、液晶や分子集合ファイバーを形成する分子の自己組織化を利用して、低次元イオン・電子伝導材料や刺激応答発光材料などの機能性ソフトマテリアルを開発してきた。近年では、有機ラジカル分子が形成する自己組織性ファイバーを開発し、その磁気特性を報告している。本研究では、有機ラジカル部位を有する低分子ゲル化剤や液晶分子を用いて、高い磁気機能などの新たな自己組織性機能材料の開発を目指した。 低分子ゲル化剤や液晶分子に導入する新たな有機ラジカル部位として、ニトロニルニトロキシドに着目した。ニトロニルニトロキシドは、金属と複合化することで1次元錯体を形成するだけでなく、安定なレドックス応答を示すなどの興味深い機能を発現する。しかし、ニトロニルニトロキシドを有する自己組織性材料は、報告例がない。そこで、研究の第一段階として、ニトロニルニトロキシド部位を有する液晶分子の合成を行った。一連の化合物を合成することにより、液晶性を誘起するための剛直な芳香環骨格の個数やその芳香環に導入する置換基が液晶性の発現と及び液晶相の発現温度に大きな影響を与えることがわかった。また、有機ラジカル部位をもたない類似の液晶分子と比較して、合成した有機ラジカル液晶が示す等方相から液晶相への転移温度が低くなるという知見も得られた。これは、かさ高いニトロニルニトロキシド部位を導入することにより、分子間の相互作用が抑えられためと考えられる。さらに、ニトロニルニトロキシドを有するアミノ酸誘導体も合成し、得られた分子が有機溶媒をゲル化することも見出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の目的は、有機ラジカル分子の自己組織化プロセスを利用した新規機能材料の開発である。特に、有機ラジカル分子の新たな磁気機能の発現を期待している。狙った機能を発現させるためには、分子の集合構造をどれだけ精密に制御できるかが重要である。そこで、当該年度では、合成した有機ラジカル分子の骨格とその分子が形成する集合構造の関係を重点的に調べた。結果として、新たな有機ラジカル部位として、ニトロニルニトロキシドを有する液晶分子と低分子ゲル化剤の開発に成功している。ニトロニルニトロキシドを有する液晶分子及び低分子ゲル化剤は、報告例がなく、注目すべき結果の一つであると考えている。 また、液晶性を誘起する様々な官能基を導入した有機ラジカル分子を合成し、液晶性を評価した結果は、分子骨格とその分子の集合挙動の関係を明らかにし、その液晶性を発現する温度範囲を分子設計の観点から制御することを可能にした。したがって、これまでに得られた結果は、液晶性を有する有機ラジカル分子の研究をさらに展開していく上で重要な知見であると言える。 合成した分子の機能の評価には、まだ至っていないが、有機ラジカル分子としての新たな機能の発現が期待できる。 以上のような研究結果から、本研究の達成度は、おおむね順調に進展していると評価しています。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、合成した有機ラジカル分子の物性評価を行い、合成した分子が新たな機能性材料として有用であることを示していきたいと考えている。大きく分けて、以下の2つの異なる機能の探索あるいは物性評価を遂行する予定である。 1つ目が、合成した有機ラジカル分子の磁化測定である。「9. 研究実績の概要」で述べた分子以外にも、申請者は、液晶中で一軸に配向した集合構造を形成する有機ラジカル分子の開発に成功している。この液晶と有機ラジカル分子の複合体は、有機ラジカル分子の特徴的な集合構造に由来する磁気特性の発現が期待できる。この複合体や他の分子の磁化測定を行う。 2つ目が、有機ラジカルのレドックス特性に注目した機能探索である。有機ラジカルで構成されるソフトマテリアルの新たな磁気機能の発現を目指すことが当初の研究計画では、あるが、磁化測定及びその解析に時間を要することが課題となっている。そこで、上記の磁化測定と並行して、有機ラジカル分子が示す高速かつ安定な酸化還元特性を利用した機能材料への展開も行う。具体的には、第一段階として、合成した有機ラジカル分子の電気化学測定を行い、これらの分子が酸化還元特性を有しているかどうかを調べる。次に、合成した分子を用いて、電圧印加により光吸収スペクトルの変化や相転移を示す材料を作製する予定である。
|