研究課題/領域番号 |
14J10708
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三津谷 有貴 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線計測 / マイクロパターンガス検出器 / ガス電子増幅器 / 大面積検出器 / 放射線イメージング / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
Glass GEMを用いた中性子散乱実験用検出器の開発の第一段階として、今年度は大面積のGlass GEM検出器の開発を行った。現在までに開発してきたGlass GEMの有感領域は100mm×100mmである。今年度はその約9倍である280mm×280mmの有感面積を持つ大面積Glass GEMを試作し、主にその基礎特性の評価を行った。 大面積Glass GEMの評価としては、まずは気体放射線検出器の重要なパラメータであるガス増幅率の測定を行った。ガス増幅率は入射放射線が形成した1次電子をどの程度増幅して読みだすことができるかというパラメータである。ガス増幅率の測定結果としては、大面積Glass GEM1枚で約8000の増幅率を達成することができた。100mm×100mmサイズのGlass GEMは10000倍程度の増幅率を持ち、これに近い値まで達成できた。有感領域全体に渡る増幅率のばらつきは±10%程度であった。また良好なエネルギー分解能を持つことも確認できた。基礎特性の評価結果に関しては、本研究領域において著名であるNuclear Instrument and Method Aに投稿し、現在査読プロセスを進めている。 また、大面積Glass GEMと励起発光性ガスを用いた放射線の二次元位置検出のデモンストレーションを行うことができた。280mm×280mmの領域で大面積のX線ラジオグラフィを行うことに成功した。 加えて、欧州原子核研究機構において、結晶化ガラスを基板に用いたGlass GEMについて共同で実験を行った。結晶化Glass GEMにおいてもガス増幅率が25000と非常に高い値となり、またFe-55の5.9keV X線で良い分解能を確認できた。結晶化ガラスによる大面積Glass GEMの開発もまた期待できるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大きく分けて(1)大面積Glass GEMの開発および基礎特性評価、(2)中性子2次元検出技術の開発、の2段階として設定した。そのうち、今年度は(1)の大面積Glass GEMの開発および基礎特性評価を行うことを主目的とした。 【研究実績の概要】において示した研究実施状況より、ガス増幅率・エネルギー分解能といった基礎特性の評価を行い、また増幅率ばらつきの評価を行ったことによって、大面積Glass GEMの基礎開発およびデモンストレーションに成功したということが言える。内容に関しては業界で著名な論文誌であるNuclear Instruments and Methods Aに投稿をし査読を進めている。したがって、以上より、今年度で大面積Glass GEMの基礎開発に関してはほぼ完了したと考えられる。 イメージングに関しては、大面積Glass GEMと励起発光性ガスの組み合わせによって、280mm×280mmの領域で2次元X線画像取得のデモンストレーションを行うことができた。このイメージング手法は電子増幅時の励起発光を冷却CCDカメラで取得する手法である。次年度以降では電気信号を用いたよりコンパクトな2次元の読み出しシステムの開発も検討している。 欧州原子核研究機構へ渡航し、結晶化ガラスを用いたGlass GEMの評価を行い、国際学会での発表などを行った。結晶化ガラスはより機械的強度や化学的な安定性が増しているため、将来的に大面積Glass GEMを実用化するにあたって有効な知見であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記の【現在までの達成度】の項に記述したように、(2)の中性子2次元検出技術の開発を主に進めたいと考えている。中性子の検出技術は歴史的には中性子と反応断面積の大きいヘリウム3が用いられてきたが、米国の核セキュリティ政策の影響を受け価格が高騰しており、ヘリウム3を用いる方法は実用的には困難である。 そこで我々の中性子の検出方法としては、同様に反応断面積の高いボロン10を用いて、中性子を荷電粒子に変換し、荷電粒子をガス検出器において検出することで間接的に中性子を検出する方法をとる。ボロン10による高い中性子の検出効率の実現を目指し、入射中性子が荷電粒子に変換される割合を高めるため、コンバータにミクロな形状を施すなどの工夫をする。 研究遂行上の問題としては、中性子源施設のビームタイムの成約による実験の制限が挙げられる。したがって実際にすべてのシステム(大面積2次元中性子検出器)を組み上げてから試験をすることは現実的ではない。そこでまずは要素技術に分解して個々を完成させることに力を入れたい。まずは通常の大きさ(10cm角)のGlass GEMと微細加工ボロン10コンバーターを組み合わせた中性子検出・画像取得の技術開発を優先したい。
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