研究課題
これまでに我々は、栓子法による脳梗塞モデルラットにおいて、脳虚血時に生じる血管透過性の亢進に伴い、ナノサイズのリポソームが虚血部位へ到達可能であること、また脳保護剤封入リポソームの血流再開前投与が脳虚血/再灌流障害治療に有効であることを示した。本研究では、血栓溶解剤t-PAで血流を再開でき、より臨床を反映した脳虚血モデルであるPhotochemically induced thrombosis(PIT)モデルの作製に着手し、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)とリポソームDDS製剤の併用療法の有用性を明らかとすることを目的としている。本年度は、PITモデルによる評価系の確立、および本モデルにおけるリポソームDDSの有用性を検討した。まずPITモデルの作製に着手し、脳細胞傷害の経時的な増加、また虚血側脳半球における脳血流の減少等が確認されたことから、PITモデルによる評価系の確立に成功した。リポソームの脳内挙動解析から、虚血部位へのリポソームの経時的な集積が認められ、リポソームによる効率的な薬剤送達が可能な処置時間の限度は血栓形成6時間程度であることが示された。リポソームの虚血部位への集積はPETによるイメージングによっても観察された。さらに、脳保護薬内封型のリポソーム製剤として塩酸ファスジル内封リポソーム(Fasudil-Lip)を作製し、その有用性を従来の栓子法によるモデルラットにおいて示した。PITモデルにおいても薬剤単独投与と比較して顕著な脳細胞傷害抑制効果、運動機能改善効果が認められた。本年度の研究成果から、PITモデルにおいてもリポソームDDSによる脳梗塞治療戦略が有用であることが示され、t-PAとの併用療法を実施した際の高い治療効果が期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では臨床を反映した脳虚血モデルにおいてリポソームDDSの有用性を明らかとすることで、リポソームDDS製剤の臨床応用への基盤構築を目指している。本年度の研究で新たに導入したPITモデルにおいて、リポソームによる薬剤送達が虚血時において可能であること、また脳保護剤内封リポソームによる高い治療効果が示されたことから、血流再開前よりリポソーム製剤を用いた脳梗塞治療が可能であると考えられる。
脳梗塞急性期においては、t-PAによる血栓溶解療法が適用されているものの、その使用は患者の数%に限られている。その主な理由としてt-PAの治療可能時間(TTW)が脳梗塞発症4.5時間以内であることや、副作用である脳出血のリスクが挙げられる。そこで今後はPITモデルにおけるt-PAを用いた血流再開の系を立ち上げ、t-PAとリポソームDDS製剤の併用療法の有用性を検討する。すなわち、リポソームにより虚血時から脳保護剤を病巣部位へ送達することによるt-PAの副作用軽減、およびTTWの延長効果についての検討を行う。併せて、脳微小循環を標的としたアクティブターゲティングDDSの開発を試みる予定である。
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Artificial organs
巻: 38 ページ: 662-6
10.1111/aor.12350
Journal of Controlled Release
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10.1016/j.jconrel.2014.07.010