半導体のナノ粒子である量子ドットは、そのサイズによってバンドギャップを大きく変化できるため、次世代の光学材料として注目されている。本年度は、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を用いて、量子ドット増感太陽電池の、特に長波長域での効率向上の可能性について検討した。 電析で作製した突起状金ナノ粒子では、電析時間が長いほど粒子の突起も長くなる。このような複数の突起をもつような金ナノ粒子は、突起が長くなるほど、LSPRに基づく吸収が長波長側にシフトする。60秒間の電析で作製した突起状金ナノ粒子(B NP60)に、長さ50 nm程度の突起を10個程度確認した。さらに、通常の金属ナノ粒子は加熱によって球状に変化してしまい易いが、金属ナノ粒子の上から比較的低温での酸化亜鉛膜(n型半導体層)を形成するプロセスを確立したことによって、金ナノ粒子の異方性を維持してn型半導体層に導入することが可能となった。 次に、この酸化亜鉛膜の上にPbS量子ドットを析出させ、光電流測定を行った。金ナノ粒子を導入しない電極の光電流値に対する、金ナノ粒子を導入した電極の光電流値の比(光電流増強係数)のピーク波長は、球状金ナノ粒子では波長700 nmだが、B NP15(電析時間15秒)では波長900 nm、B NP60では波長1300 nmまで長波長側にシフトした。このことから、粒子形状によって、可視・近赤外領域において光電流増強波長域を制御できることを明らかにした。さらに増強係数はピーク波長域で最大4倍に達した。この研究成果は、ChemNanoMat誌(独Wiley社発行)に掲載され、ChemViews Magazine誌に当該論文が紹介された。 LSPRを用いた太陽電池の効率増強において、可視・近赤外領域での光電流増強波長域の制御が可能なことを示したため、所定の目標を達成したといえる。
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