本研究は「アイデンティティ・ポリティクス」を超克した「共生社会」の可能性について探るものである。とくに「多〈文化〉主義」を超える者としての「家族形成移民」たち、そして多元的な「共生社会」実現へ主体的に働きかける〈媒介者〉たちの検討を通して、「共生」へのポジティブな展望を導出することを目的としている。その目的遂行にあたり、国際養子および国際結婚移住者を主な調査対象者として研究を進めた。 本年度は昨年度までの蓄積――本研究における第一の対象としている国際養子、なかでも韓国養子たちや彼らをとりまく人々の活動の諸相、そして母国である韓国社会に影響を及ぼしている様相についての調査・検討――を基に、彼らの動きが日本の養子縁組の現状、さらには多文化共生を目指す社会にどのようなインプリケーションを与えることができるのか検討した。また韓国養子たちの刻々と変わりゆく立ち位置、そして彼らの家族が彼らの想いをどのように理解し共有しているのかを探るべく、追加調査をした。そして一連の調査・検討を博士論文にまとめた。そしてこの博士論文の要点を中心に「第15回多文化関係学会年次大会」にて報告を行い、「石井奨励賞」を受賞した。 本研究が着目してきたのは、マイノリティと呼ばれる人々が抱える問題における「当事者性」およびその範疇である。彼らの想いを掬い上げ、真に必要としているものを提供しようとする際、彼らが訴えたい想いを的確に理解し、彼らを包摂すべき多文化社会に伝えることができうる、いわゆる〈媒介者〉の存在はとても重要である。本研究は、彼らの想いに共感し、その積み残した課題を引き継ぎ、さらに次世代へも伝えていこうとする、広義での「当事者性」を持った存在としての彼らのパートナーおよびその子どもたちの動きにも着眼し、より望ましい多文化社会の実現に寄与する可能性を探った。
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