研究課題/領域番号 |
14J10826
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
髙橋 時音 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | イメージング法の改良 / 高感度化 / 位置分解能改善 |
研究実績の概要 |
原子力施設におけるシビアアクシデントの際に、放射性物質の分布を迅速に測定するための全方向ガンマ線イメージング法の開発を行っている。同時に、ダーティーボムと呼ばれる放射性物質をまき散らすことを目的とした爆弾の探知に向けた応用を目指している。参考としてCdTe半導体の3次元アレイ検出器を用いて、方向別に検出器の幾何形状が異なる場合に、全方向のイメージングにどのように影響するかを確認するための実験を行った。その結果、線源から入射するガンマ線の進行方向の位置分解能がイメージング性能に大きく影響することが分かった。 得られた実験データについて、コンプトンイメージングをする際の算出される散乱角別に弁別しそれぞれにイメージングを行ったところ、散乱角の違いによってピークが鋭いが逆方向に擬似ピークが現れる像が得られる領域と、ピークの広がりは大きいが逆方向のカウントが少ない像が得られる領域の2つに分けられることが分かった。そこで、角度分解能の向上のために特徴の異なる領域ごとに得られた逆投影図の全ピクセルのカウントを乗算し、ピークをより鋭くしつつノイズ成分を抑制する新たな手法を開発した。本手法では、従来方向分解能の向上のために広く用いられる最尤推定期待値最大化法と比べ、計算に必要なマシンスペックや時間が低減できること、より少ないカウントで適用することができることなど、迅速な測定を目指す本検出器により適した手法であると期待できる。 検出器のデータ処理系を簡素化するために、2次元光電子増倍管の1つのチャンネルに4本のロッドを取り付け、取り付けたチャンネルと周りのチャンネルへのクロストークを用いて4本のうちどのロッドが発光したのかを小領域重心演算を用いて判別する手法を取り入れた。これにより、データ処理系を複雑化させることなく、より高感度で細かな位置分解能を持った検出器を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本システムは、広範囲に散らばった放射性物質の分布の迅速な測定、あるいは、ダーティーボムと呼ばれる放射性物質をまき散らすことを目的とした爆弾のような、位置が特定されていない放射性物質の探知を目的としているため、高感度化が重要となる。シンチレータスタックを用いた場合には有感体積を大きくするのは容易であるが、相互作用位置の位置分解能を得るために細いロッドを増やすとシンチレータ光の読み出しが困難になる。小領域重心演算を用いたロッドの特定を導入することで、光読み出し回路を複雑にせずにロッドを細分化する、もしくは、細いロッドを増やし有感体積を大きくすることが可能になり、高分解能化、高感度化の実現に成功した。また、位置分解能を向上させた試作検出器による測定で全方向について逆投影を行うことができることが確かめられた。 全方向イメージング法はコンプトンイメージングを基本としており、角度分解能の向上には最尤推定期待値最大化法などの統計的な手法を用いることが一般的であるが、本システムは迅速な測定を目標とするため、時間を要するそれらの手法を取り入れるのは不向きである。そこで、コンプトンコーンの散乱角別で得られる逆投影図の特徴を活かした手法を新たに提案した。本手法では測定と同時に分解能を改善した像を得ることができるため、リアルタイム測定でも用いることができ、応用に向けて有用なイメージング方法となる。 以上のように、全方向イメージング法および検出器の改善を行うことができ、応用検討に向けて基礎となる要素の検討が進行した。
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今後の研究の推進方策 |
全方向ガンマ線イメージャとして具体的にいくつかの応用を検討する。 実際に放射性物質の分布を測定する際の運用方法、および、複数点での測定結果を用いた3次元分布を取得する。また、光学的カメラによる実際の測定場所の写真や動画と測定結果を組み合わせ、より直感的に分かりやすく結果を表示することを目指す。 高線量下における運用のために感度を低下させた検出器について評価する。感度の低減は、シンチレータスタックの有感体積を減らすこと、もしくは、スタックの外周側のいくつあの層を不感層つまり遮蔽物として扱い、内側のシンチレータのみを動作させることの二通りが考えられる。前者は高線量場向けの特別な仕様のものが別に必要となる一方、後者はあらゆる線量下で使用することができる。但し、前者の場合は隙間を開けるなど幾何学的配置を工夫することができるという利点もある。これらの点を踏まえ、両者について検討し比較する。 シンチレータスタックを原子力発電所内のモニタリングポストとして運用する方法を検討する。特に、シビアアクシデントでプルームを放出した場合にグランドシャインとスカイシャインを分けて線量を評価する方法が求められており、方向を識別することができる本システムを用いてそれらの寄与を分け、線量を補正することを目指す。また、いくつかのモニタリングポストを設置し連動させることで、プルームの流れていく方向を補足することが可能であるか検証する。
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