研究課題/領域番号 |
14J10892
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
佐藤 恵 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 言語意識 / 言語変化 / 学校教育 / 規範 / 書きことば / 話しことば |
研究実績の概要 |
本研究は、17世紀から19世紀にかけての300年間のドイツ語の変遷を、いくつかの具体的な文法現象を例にしながら、書き手・話し手の言語意識から解明することである。これまでは私自身が作成した「散文コーパス1520-1870」(ドイツ語書籍計140冊)、学習院大学所蔵の「ドイツ18世紀文学データベース」、そして音楽家ベートーベンによる筆談帳、手紙、理論書をもとに私が作成した「ベートーベン・言語コーパス」を資料として、属格(Genitive)を支配するとされる前置詞を与格(Dative)で用いるケースに注目し、格支配に関する書き手の言語規範意識について考察を行なった。 ベートーベンの言語使用について得られた研究成果をもとにして、ザルツブルク大学(オーストリア)のStephan Elspass教授を招聘して行われた京都大学・学習院大学大学院合同ドイツ語学コロキウム(4月・京都大学)、日本独文学会春季研究発表会(5月・武蔵大学)、キール大学(ドイツ)のMichael Elmentaler教授を招聘して開催された日本独文学会第43回語学ゼミナール(9月・コープイン京都)、およびドイツの都市言語学会(10月・トリア大学)で研究成果の一部を発表した。口頭発表においては、筆談帳におけるベートーベンの甥の言語使用に注目し、同じ伯父であってもベートーベンとベートーベンの弟ヨハンに対してことばを使い分けている例を示すことで、甥とベートーベンの間の微妙な人間関係を浮かび上がらせることができた。また就学年齢にあった甥の言語意識の背後には、学校教育、規範を定めた文法家の影響が想定される。「与格(目的格)は親密を表し、属格(所有格)は疎遠を表す」というベートーベン、およびベートーベンをめぐる19世紀初めの人々の言語意識に迫ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年9月から12月までオーストリアのザルツブルク大学に研究滞在し、Elspass教授に定期的に面談をしていただき、本研究について指導を仰いだ。面談に際しては特に19世紀前半の言語状況について確認し、日本で入手が困難な原典資料については、ザルツブルク大学図書館で調査を行い、資料を入手した。また、ドイツの都市言語学会(10月・トリア大学)では研究成果の一部を発表し、多くの研究者からさまざまな助言や知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
自身が作成した上記の散文データコーパス(「散文コーパス 1520-1870」)にはさまざまなジャンルのテクストが混在しており、テクストの均質性の面で不十分な点があることが判明したため、テクスト種類を均一化したコーパスを新たに構築する作業を行なった。当該コーパス作成にあたっては、1)(書きことば性が高いと想定される)新聞、および2)(話しことば性が高いと想定される)ドラマというテクスト種類に限定し、まずは1750年~1850年の100年間(ドイツ文章語の規範が確立した1800年前後の50年間)に発行・出版された資料を収集した。現在のところ、新聞についてはベルリン新聞30年分・ミュンヘン新聞20年分・ウィーン新聞5年分の調査を完了している。 一方、ドラマコーパスについては現在のところ、1750年~1850年のドラマ(戯曲)200作品のデータ化が終了している。ドラマにおいては人物設定、状況設定が明確にされており、さまざまな身分の人物が登場するので、社会的身分によることばの使い分けが観察できる。さらにドラマの中のト書きは登場人物(言語使用者)の感情を示す手がかりとなるので、ドラマは当時の会話をうかがい知るのに格好の資料であるといえる。前置詞の格支配の使い分けをめぐっては、「ヨコの人間関係における話し手と聞き手の「社会的距離(Distance)」、タテの人間関係における聞き手の話し手に対する「力(Power)」」が大きく関わっていると考えられるので、ドラマの台詞の分析に際しては、ポライトネス理論を援用し、話し手と聞き手の間の社会的身分・地位の違い(Power)、心理的距離(Distance・親疎関係)を考慮する。今後は新聞コーパスの調査と並行してドラマコーパスの調査も進め、ベートーベンの言語資料ではうかがい知れなかった、社会的身分によることばの使い分けを見ていきたい。
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