研究課題
本年度は、1800年前後の上部(南部)ドイツ語圏における新聞と書簡テクストに関して前置詞wegenの格支配の調査を行った。私自身が作成した「新聞コーパス1750-1850」(総語数約8610万語、総用例数7067)における属格・与格支配の割合を調査したところ、「散文コーパス1520-1870」について確認していたのと同じ傾向性(上部ドイツ語圏における与格出現頻度の高さ、1800年頃を境とした与格の減少)が認められた。一方書簡データとしては、18世紀後半のモーツァルト家の手紙を分析対象とした(総用例数322)。書簡のなかでモーツァルトの父レオポルトは、モーツァルト本人とは異なり、家族以外には(家族宛の手紙よりも)相対的に属格を多く使用していた。レオポルトは教養ある人物で標準語の規範にならったことばを書き、手紙のなかで文法家ゴットシェートに頻繁に言及している。彼が属格を相対的に多く使用したのは、属格支配が正規形であるという意識があったことに由来すると考えられる。つまりwegenの格支配をめぐっては地域的特性だけでなく、書き手の言語規範意識、つまり社会言語学的な要因が大きく関わっていると想定される。新聞と書簡についての研究成果は、ドイツの「都市言語史学会」(2016年9月、ザルツブルク大学)、HiSoPra*研究会(2017年3月、学習院大学)で口頭発表した。また、18・19世紀のドラマにおいて、話し手・聞き手間の社会的身分の違い、心理的距離による属格・与格支配の使い分けが見られることを論じた私の論文が、2016年10月にドイツの言語学専門誌Sprachwissenschaft(Heidelberg)に公刊された。前年度にドイツの言語学専門誌Muttersprache(Wiesbaden)に掲載された私の論文に対して、2017年3月に第14回日本独文学会賞の授賞が決定した。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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『学習院大学ドイツ文学会研究論集』
巻: 21 ページ: 19-43
Sprachwissenschaft (Heidelberg, Germany)
巻: Band 41, Heft 3/4 ページ: 403-420