本研究は、人的結合国家から領邦分立体制への過渡期とされる12世紀ドイツにおいて国王宮廷が果たした役割について、伺候した側である諸侯に焦点を当てることにより、従来の王権を中心とした宮廷研究と異なる、新たな側面を明らかにすることを目的としている。 今年度は前年度に変更した研究計画に従い、ザルツブルク大司教・フライジング司教・パッサウ司教に焦点を当て、初期シュタウフェン朝期(王コンラート3世治世[1138-1152年]および皇帝フリードリヒ1世治世[1152-1190年])における、彼らによる国王宮廷への伺候の傾向(伺候の頻度・国王宮廷の場所・本拠地からの距離)の変化と、彼らの政治的動向について研究し、それらの関係について分析を行った。その成果として、バイエルンの聖界諸侯においては従来の定説と異なり、諸侯による領域政策の進展と伺候の傾向の相関は弱く、伺候の傾向に大きな影響を与えたのは周辺勢力との関係を含めた政治的状況であること、そしてフリードリヒ1世治世末期の積極的な伺候の傾向は従来指摘されてきた帝国の分裂傾向とは逆の方向性を示していることを明らかにした。 更に前年度の世俗諸侯に関する研究成果と比較検討することで、前年度に明らかにした王権と伺候した諸侯の関係の修復という国王宮廷の役割を、伺候する側の諸侯が自身の意思をもって選択的に活用していたことを明らかにした。 今後、比較対象とする諸侯を増やすこと、および諸侯の置かれていた政治的状況に関する研究の精度を高めることにより、この時期の国王宮廷が果たした役割について更なる発見が可能であると期待できる。
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