研究課題/領域番号 |
14J10961
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
三村 喬生 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所微細構造研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症 / バロプロ酸 / 前交連 / 社会性行動 / 生後発達 / 音声 |
研究実績の概要 |
本研究は、胎児期にバロプロ酸へ暴露された自閉症モデル小型霊長類コモン・マーモセット(VPA群)を用い、家族間の相互的社会性(kinship社会性)の定量と、gene-chipスクリーニングに基づく治療候補薬剤を用いた表現系変化の定量を目的とする。研究1年目は複数の皮質領域にわたる遺伝子発現解析を生後発達追跡的に実施し、VPA群において神経繊維発達に関わる遺伝子の発現量が生後初期に低下している示唆を得た。そこで、研究2年目である平成27年度は、VPA群の生後初期における脳構造の定量と、kinship社会行動の定量的な測定法の開発・改良に取り組んだ。 ・ 脳構造差異の検証:放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターと共同で、VPA群と非投与群の間で、脳構造差異の定量を行った。VPA群を3個体作出し、新生仔期(生後2日齢)にて灌流固定した。これと非投与個体10頭を用い、脳構造を比較した。新生仔期の脳では、神経繊維の発達が未成熟であるためMRI等の手法で構造情報に適したS/N比を得ることが一般に困難であるが、最適な撮像シークエンスを新規に開発した。結果、VPA群において前交連の神経繊維発達範囲が減少している傾向が示唆された。現在、更に4個体の作出が予定されており、それらの結果を踏まえ、成果をまとめる予定である。 ・ kinship社会性行動:ヒトに近い家族環境を持つコモン・マーモセットの自閉症モデルを用い、kinship社会性の定量法の開発に取り組んだ。離乳期に当たる生後3ヶ月齢の前後2ヶ月(1~5ヶ月齢)において、月2回の家族環境音声測定を実施し、その音声種ごとの頻度を定量した。VPA群5個体とその家族、非投与群7個体とその家族で測定した結果、親和性を表す事で知られる[trill call]の全call数に対する比率が、特に発達初期においてVPA群家族で低下する傾向を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年までの遺伝子発現解析に基づき、本年度は、下記に示すように脳神経構造および行動表現系の双方から自閉症モデル動物を解析し、それぞれにおいて有意な成果をあげたため、当初の計画以上に進展していると言える。 脳神経構造:新生仔期において自閉症モデル群に特異的な神経発達阻害が示唆されたため、外部研究機関と共同でその検出に注力した。結果、先行した遺伝子発現解析およびヒト自閉症の臨床治験と矛盾しない結果(前交連の発達阻害)を得た。ヒト自閉症の場合、撮像が長時間に及ぶ事から新生児でDTIやMRIの撮像は倫理的ハードルも高く、また、診断は3歳児検診以降になるのが一般的であり、新生児期の神経表象については研究が極めて困難である。また、多くの自閉症モデル動物が報告されているが、新生児期の未熟な神経繊維を詳細にイメージングする事が困難なため、これまで知見がなかった。本研究では新規撮像シークエンスを開発する事でこれを解決し、有意な結果を得た。 行動表現系:自然な社会的状況(今回は母・父・仔の3匹によるkinship環境)では、複数の個体が自由に運動するため、一般に定量的解析が困難である。本研究では複数のアプローチからこれに取り組んでいるが、本年度は特に音声解析に注力した。自由行動下の家族で交わされる音声表現系を仔の生後発達を追跡して測定した結果、自閉症モデル動物の仔を含む家族では、仔の離乳期において親和的音声頻度の有意な低下が検出された。これは豊かな音声レパートリィを持ち、ヒトに類似したkinship環境を持つコモンマーモセットを用いたからこそ得られた研究成果であり、非侵襲・低ストレスな集団の社会的環境尺度として、ヒト臨床場面への応用が期待できる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、現在作出中(妊娠・投薬中)のモデル動物の出産と、既に作出した個体群の発達段階の進展が予定されており、これらの解析を行う。 脳構造解析においては、kinship行動表現系に特に顕著な差が見られた離乳期(3ヶ月齢)をターゲットとし、新生仔期にみられた神経繊維の減弱がその後の発達において維持されるのかを検討する。必要に応じて免疫組織化学染色法を用いた定量を並行して進める。既に、該当する時期の遺伝子発現解析は終了しており、それと合わせて研究成果としてまとめる。個体の発達を待つ間を利用し、放射線医学総合研究所と共同で、定型群(バロプロ酸非暴露群)を用い、3ヶ月齢の神経繊維を高解像度でイメージングするための最適な撮像シークエンスの開発を行う。 行動表現系の解析においては、個体をkinship環境から単離した状況のデータ測定を並行して進めてきたた。音声種ごとの頻度解析に加え、音声種間の遷移確率(音声Aの次にBが鳴かれる確率)に基づくモデル構築を行う。更に、単離状況・kinship環境それぞれでの音声の並びを解析する事で、社会的親和状況に特異的な社会的文脈の抽出を試みる。近年、ヒトの言語解析において協力に応用されている言語トピックモデルの応用を試みる。生後発達に伴う社会的文脈の変化に関する研究はこれまでになく、これが実現する事で、ヒト臨床応用に直結した医用システムモデルとなると期待される。
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