研究実績の概要 |
本研究では、イネの葉におけるショ糖合成の鍵酵素として知られるショ糖リン酸合成酵素(SPS)に着目し、その酵素活性が上昇/低下したイネを解析することで、イネの糖代謝、ひいては生育、収量におけるSPSの役割を明らかにすることを目的としている。 NIL-SPS1は、日本型水稲品種「コシヒカリ」を遺伝的背景とし、SPSをコードする主要な遺伝子であるOsSPS1近傍がインド型水稲品種「カサラス」に置換された系統である。葉身のSPS活性が親品種のコシヒカリよりも高く、一穂籾数が多いことが明らかとなっており、カサラス型のOsSPS1が一穂籾数を増加させる可能性が示唆されていた。本年度は、NIL-SPS1にコシヒカリを戻し交雑したF3集団、およびNIL-SPS1にOsSPS1の発現を低下させるRNAiコンストラクトを導入した系統の一穂籾数に着目し解析を行った。その結果から、OsSPS1はNIL-SPS1の高い一穂籾数には関与していない可能性が高いと考えられた。 昨年度までのSPS変異体の解析から、SPSがソース葉におけるショ糖合成の制限要因であるというこれまでの定説がイネでは当てはまらない可能性が示唆された。本年度は昨年と同様にOsSPS1ノックダウン(KD)系統の圃場試験を行い、同様の結果を得た。また、昨年度までに作出したOsSPS11ノックアウト(KO)系統とOsSPS1-KD系統を交配し、OsSPS1-KD/OsSPS11-KO個体を得ることに成功した。この系統は野生型と同様の栄養成長を示した。この結果はOsSPS1, OsSPS11ダブルノックアウト系統を用いた昨年度までの解析結果を支持している。今後、この系統を用いることで、イネのSPSに関するより詳細な解析が行われることが期待される。
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