研究課題/領域番号 |
14J10978
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 奈緒子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 神経科学 / TORシグナル伝達経路 / 連合学習 / 行動 |
研究実績の概要 |
私は、線虫C. elegans(以下線虫)を用いて、塩走性学習と呼ばれる連合学習を制御する分子メカニズムを解明しようと試みている。これまでにGo/Gq経路、インスリン様シグナル伝達経路、TORシグナル伝達経路という、生物種間で広く保存された3つの分子経路が塩走性学習に関わることが明らかになっている。 本年度は特に、TOR経路と塩走性学習の関係を調べることに注力した。TORは、栄養源シグナルを伝達すると考えられる、酵母から人まで保存されたシグナル伝達経路である。TOR複合体1(TORC1)とTOR複合体2(TORC2)という2種類の複合体を形成し、それぞれ異なる下流分子を持ち、異なる生命活動を制御することがわかっている。このうちTORC1とTORC2どちらがより塩走性学習制御に関与しているかを薬剤阻害と変異体の解析により調べた結果、TORC2がsgk-1とpkc-2と呼ばれるキナーゼを介して塩走性学習を制御していることを示唆するデータが得られた。TORC2と塩走性学習の関係が明らかになれば、今までTORC1に比べて詳細な解析が進んでこなかったTORC2の機能の解明につながると考えられる。 また、TORの機能細胞を同定するためにRNAiやCre-loxPシステム、CRISPR/Cas9システムを用いて細胞特異的にTOR関連分子の機能を失わせたり、低下させたりすることも試みたが、野生型と比べて顕著な表現形異常が観察されなかった。今後は、変異体の遺伝子機能回復実験を通して機能細胞を同定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TORの塩走性学習への影響評価に関しては順調に進んでいると考えている。ラパマイシンのほか、Torin1、Torin2と呼ばれる強力なTOR選択的阻害剤を使用し、TOR経路が記憶想起時ではなく、記憶獲得時に特に重要であることを示唆するデータが得られた。 一方でTORの機能部位の解析については、変異体の遺伝子機能回復実験により一定の成果は得られたものの、細胞特異的遺伝子破壊実験は意味のあるデータが得られず、現在のところうまくいっていない。 本年度は研究成果をアメリカ合衆国、ウィスコンシン州マディソンで行われた学会 "2014 C. elegans topic meeting: Neuronal Development, Synaptic Function and behavior"で発表し、ポスター賞first prizeを受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞特異的に遺伝子機能を回復させることにより、TOR関連遺伝子の機能部位を決定する。また、インスリン様シグナル伝達経路やGo/Gq経路の遺伝子との多重変異体を作成し、経路間の相互作用を解析する。 また、TORC2の下流分子であるsgk-1やpkc-2の標的遺伝子の解析により、TORC2の塩走性学習における役割を明らかにする。
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