今年度は夏季に行った下記の実験とともに、博士論文の作成(平成28年3月24日博士号取得)と、長期的に間接効果の大きさを評価した研究の論文作成を行った。 本申請課題では、捕食性巻貝イボニシ (Thais clavigera)・藻食者キクノハナガイ (Siphonaria sirius)・藻類緑藻 (Ulva sp.)、藍藻 (Lithoderma sp.) という系を用い、イボニシがキクノハナガイを介して藻類相に与える間接効果の大きさを実験的に長期間評価し、間接効果の変動やその季節性について調べた。そのなかで、被食者キクノハナガイが夏季に産卵する卵の孵化に、捕食者が何らかの影響を与えている可能性が示唆された。そのため昨年度、被食者の成体を捕食する捕食者イボニシと、キクノハナガイの卵を捕食する捕食者シマレイシガイダマシの存在が、卵の孵化日に与える影響を評価した。目的達成のため、まず、潮間帯に点在する大型の転石を実験区として選出した。その後、成体の捕食者や卵の捕食者の存在下で孵化日が変動するのかを明らかにする実験を行った(実験1)。さらに、胚が自ら孵化のタイミングを決めているのかどうかを明らかにするために、産卵前から産卵直後まで卵捕食者が存在する処理区と、産卵直後から孵化まで存在する処理区を設けて実験を行った(実験2)。 実験1の結果、卵捕食者の存在下でのみ、孵化が1日近く早まることが示された。また、実験2により、産卵後に卵捕食者が存在することで、孵化が早まることが示された。つまり、親が卵サイズを調節して孵化を早めるのではなく、胚が自身の被食リスクに応じて孵化を早めていると考えられた。有力な卵捕食者が存在するキクノハナガイの胚発生は、有力な卵捕食者が知られていない近縁種の発生と比べて非常に早いことからも、この現象は、卵捕食者に対する反応であることが示唆された。
|