研究課題/領域番号 |
14J11023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 亮 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | SQUID / TES / FDM / X線天文学 / ダークバリオン / 銀河間物質 / 極低温 |
研究実績の概要 |
私はTES型X線マイクロカロリメータアレイ(以下、TESカロリメータアレイ)のMHz帯交流駆動による信号多重化(FDM)の実現に向けて、極低温(~100mK)で動作する磁場耐性を持つSQUIDと、LC共振を用いたバンドパスフィルタの開発を行った。将来の衛星計画では極低温環境を実現するために断熱冷凍機を使用するので、極低温ステージでは磁場対策が重要となる。そこで、外来磁場に耐性を持つグラジオメータ型SQUIDを製作した。磁場の印加実験により、地磁気程度の磁場であれば動作に影響を及ぼさないことが分かった。また極低温ステージ上にはTES、SQUIDに加えLCフィルタも設置する必要がある。従来使用していた市販の表面実装用キャパシタは極低温ステージの占有率が大きいので、アルミの陽極酸化膜を絶縁体に用いたキャパシタを製作し、LCフィルタも多重化用SQUIDの基板上に実装することに成功した。これらの極低温での動作実証にも成功している。 また 11月下旬から12月中旬まで、FDMの研究を競争的かつ共同ですすめているオランダのSRONにおいて、実際に検出器を低温で動作させ信号多重化読み出しを行う試験があり、これに参加した。この試験の詳細を2つの報告書にまとめて、SRONに提出した。 次に、ダークバリオンの総量観測に向けた矮小銀河と銀河間空間の相互作用の解明については、矮小銀河DDO120の観測データを使用し、最近の星生成活動に伴って星風や超新星爆発で放出された高温ガスの検出、温度や密度の決定を目指している。しかし、これまでの解析結果からX線源は同領域に電波で観測されているクェーサーである可能性が高いことが分かってきた。そこで、私はクェーサーによる放射から、矮小銀河に付随する高温ガスからの放射を切り分けることを目標に現在詳細解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TESカロリメータの交流駆動による同時多素子読み出しに関しては、今年度は実験室で実際の駆動実験を行った。数回に渡りTES素、SQUID素子の実装も行い、様々な工夫をしながら測定を行うことができた。磁場耐性を持つSQUID、 SQUID基板上に製作したLCフィルタについては低温での動作実証を行い、これらの結果をFDM のための極低温回路の開発成果として日本天文学会秋季年会で発表を行った。以上により、要素技術が完成しつつあるので、これをシステムとして組み合わせ評価ができる段階に到達した。そこで、TESカロリメータアレイ、SQUID、LCフィルタ、FDM 用のデジタル室温回路を用いてX線照射による動作試験を行った。全てのシステムが動作しての、初めての X 線信号の取得に成功した。 またオランダSRONでの実験は、約一ヶ月間、極低温回路部分から室温の読み出し回路まで、様々な試験を行いながら、信号多重化での問題点の洗い出しと低雑音化を行った。私はこの実験を通して、SRONの回路上の問題点の発見やシステムの改善に貢献することができた。実験の内容、測定データの解析については英文報告書にまとめて、SRON側に提出することができた。この内容についてはSRONの成果なので私が学会等で発表することは難しいが、今後の日本での開発のために非常に良い経験を得ることができた。 また、ダークバリオンの総量観測にむけた矮小銀河の解析についても詳細解析を始めたところである。現在は研究背景についての理解を深め、正しく解析結果を評価することに尽力している。これまでのところ新しい発見を得られたわけでは無いが、そのための準備ができていると自負している。
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今後の研究の推進方策 |
交流駆動での信号多重化実験については、全システムを駆動しての性能評価ができるようになった。そこで見つかった、システム全体についての問題点を個々のコンポーネントの設計にフィードバックし、改善を行っていく。特にMHz帯の交流駆動では、通常のDC駆動に比べて低温回路、冷凍機配線、室温デジタル回路すべてのコンポーネントについての寄生インピーダンスを正しく理解し制御下に置く必要がある。そこで、MHz帯でも正確にインピーダンスを求めることができる測定系を構成し、各コンポーネントについて詳細な評価を行っていく。 また、これらの成果を来年度に開催される国際学会で発表することを目指す。またこの国際学会にはオランダSRONも参加する予定なので、積極的に情報交換を行っていきたい。 これに加え、私は矮小銀河の解析と共に既存の観測データからダークバリオンの候補である中高温銀河間物質(WHIM)の検出も目指していく。 WHIMの観測例としてあげられるのが、H2356-309の吸収線である。これは、SculptorWallという宇宙の大規模構造背後の明るい天体H2356-309をChandra衛星とXMM-Newton衛星の回折格子で観測した例であり、奥行き方向の長さを仮定し求められる密度はWHIMの予想値と一致するため、この起源は大規模構造に付随したWHIMだと考えられているが、本当にWHIM由来であるかは吸収線の観測だけでは同定できない。 これを解決するのが同天体からの輝線観測である。吸収線は密度と奥行きの長さの積に比例し、輝線強度は密度の自乗と奥行きの長さの積に比例する。そのため、起源を同じくする輝線と吸収線の両者の観測から、密度と長さ分布を独立に求めることができる。私はSuzaku衛星による観測データから輝線強度の上限値をつけ、この天体の奥行方向の長さに制限をつけることを目指す。
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