研究実績の概要 |
光合成は光エネルギーを利用して二酸化炭素と水から化学エネルギー源となる糖を合成する反応である。光合成における水分解反応は、葉緑体中の光化学系IIタンパク質複合体中にあるMnクラスターで行われる。光化学系IIの反応中心クロロフィルが光子を吸収すると電荷分離反応によりMnクラスターから電子が引き抜かれる。Mnクラスターは複数の酸化状態S0-S4を持つ。Mnクラスターから電子が引き抜かれるたびに、MnクラスターのS状態は次の状態へと移り、最も不安定なS4状態に到達すると、酸素を発生してS0状態へと戻る。水分解反応は、S状態遷移において段階的にプロトンが引き抜かれて放出されていく。Mnクラスターはこのような反応(Kok cycle model)によって水を分解している。Mnクラスターの構造は近年のX線結晶構造解析(Umena et al., Nature 2011, Suga et al., Nature 2015)によって明らかにされている。X線によるとMnクラスターは4つのMnとCaイオンが酸素によって架橋され、水分子が4つ、クラスターに結合している。本研究は、X線では見えていないプロトンの検出をENDOR法によって行い、その構造を調べた。 本研究ではCaの役割を調べた。Ca除去はMnクラスターの活性を失わせるものの、Caの再構成によって、その活性は回復する。Ca除去したMnクラスターをENDORによって測定すると、Caイオンに配位する水分子に由来すると考えられる信号が消失した。この結果は以前発表した論文(Nagashima and Mino, Biochim. Biophys. Acta 2013)を実験的に強くサポートする結果であった。
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