研究課題/領域番号 |
14J11126
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
加藤 弘子 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 特別研究員(PD) (70600063)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 写生 / 模写 / 粉本 / 近世絵画 / 日本美術史 / 狩野派 / 岡本善悦豊久 / 徳川吉宗 |
研究実績の概要 |
近年、欧米では松平定信や円山応挙が活躍した18世紀後半の「視覚革命」が定説となり、これに先行する18世紀前半の徳川吉宗や狩野派による視覚の更新については軽視されてきた。こうした現状をふまえ、平成27年度は吉宗に仕えた奥坊主岡本善悦や御絵師狩野古信・典信の写生と模写に関する研究を中心に進めた。その結果、(1)享保期を中心に徳川吉宗は日本や中国、オランダの絵画や絵入り書籍を集め、見つめたことによって、絵師より先に新たな視覚を獲得し、(2)吉宗が先導した古画模写と写生図制作によって膨大な図像が幕府と狩野派に粉本として蓄積され、(3)この事業に携わった狩野古信とそれに続く典信の視覚と図像が更新された実態を確認した。従来の研究では、将軍の趣味と格式が狩野派の写生図にみられる創造性を抑圧したと考えられていたが、吉宗は絵画の復古と革新を同時に促し、当主の相次ぐ早世で危機にあった狩野派を再興へと導いた可能性が高い。吉宗の模写・模造事業は刀剣から始まっており、今後は、大名家や社寺の文化財調査及び情報アーカイヴ構築として再考する必要がある。 研究成果は東京文化財研究所企画情報部研究会での中間報告を経て、アメリカアジア学会シアトル大会(AAS2016)でパネルセッション「Copying and the Circulating Image in Early Modern East Asia(近世東アジアにおける写しと図像の循環)」を企画して発表した。なぜ日本にまとまった粉本が伝来したのか、図像を伝えるメディアの違いなど、アメリカ、台湾、日本の研究者と意見交換し、今後の課題が明確になった。 また、分担者を務める科研と連携して美術史学会例会で粉本研究の成果報告をしたほか、琳派400年祭にあたり、図像の共有・継承の観点から琳派研究の動向を総括し、流派概念の限界と可能性について『artscape』に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度に続き、科学研究費助成事業(基盤研究A)「板谷家を中心とした江戸幕府御用絵師に関する総合的研究」(板谷科研)と連携することで、18世紀前半における重要な視覚と図像の更新についての研究が予想以上に進んだ。 調査件数:当初予定12件を超える13件の作品調査及び資料収集を行った。 研究発表等:国内研究会1件、国内学会1件、国際学会1件、一般雑誌等への記事掲載3件を行い、写生図を含む粉本研究の重要性を国の内外に広める発表を積極的に行った。 計画変更:平成27年度当初、円山応挙については人物写生を中心に研究を進める予定であったが、欧米での研究状況を確認し、また、分担者を務める板谷科研と連携して研究を進める中で、円山応挙以前の18世紀前半の視覚の更新を先に確認する必要性が判明した。このため計画の一部を変更し、徳川吉宗周辺で行われた写生と模写に関する研究を優先して進めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)円山応挙と円山派の「写生」については、平成27年度に計画変更した作品調査を実施し、目録の翻刻と校正を継続する。 (2)他の流派の「写生」については、これまでの研究成果に基づき、博物図譜資料、板谷家伝来資料、木挽町狩野家模本など東京国立博物館所蔵品を中心に研究を継続する。また、これに関連して板谷家伝来資料データベースの更新を行う。 最終年度にあたり、これまでの研究成果を幅広い視野から総括し、論文を発表する。
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