(1)円山応挙と円山派の「写生」に関する調査研究 東京国立博物館所蔵の円山応挙筆「写生帖丁(禽蟲之図)」に、これまで確認されていなかった端書を見出し、応挙が渡辺始興筆「鳥類写生図巻」を直接、写した模本という従来の見解について見直しを進めた。また、根津美術館開館75周年記念特別展「円山応挙―「写生」を超えて―」図録に論文を寄稿し、新聞社の取材に対応した。一般にはまだオリジナルを重視する価値観が根強いといえるが、写生と模写が密接に関係している事実や、粉本の重要性について、広く理解を促すことができた。さらに、本展を契機に非常勤講師を務める大学に地元市民から円山派粉本の情報が寄せられた。教材として提供いただき、地元の文化財を活用した講義を行うことで、研究成果を教育に活かすことができた。
(2)その他の「写生」に関する調査研究 昨年度に続き、「板谷家伝来資料」(東京国立博物館所蔵)の調査研究とデータベース構築を行った。試行版データベースに1730件の情報を追加して新たに検索用キーワードを付したほか、田中潤氏(学習院大学)の協力により、幕府の画料に関する資料や江戸城杉戸絵筆者に関する資料など、幅広い分野の研究に活用されることが期待できる重要文書の翻刻PDF公開を推進し、コンテンツの拡充に努めた。また、第八代将軍徳川吉宗と彼に仕えた奥坊主岡本善悦(豊久)による模写・模造事業の調査研究を継続し、和歌山県文書館等で調査を実施したほか、狩野古信・典信親子、善悦の弟子であった黒川亀玉と南蘋風流行との関係を探る研究を進めた。
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