研究課題
燃料電池用の実用触媒はPtを代替する材料開発が急務である。窒素ドープ炭素材料は燃料電池での酸素還元反応(ORR)を促進する低コスト代替触媒として注目されており、その触媒活性点を特定することが重要である。本研究の目的は、in situ 軟 X 線吸収・発光システムを開発し、酸素還元反応中における 実触媒および窒素ドープグラファイトモデル試料の軽元素の電子状態変化を比較することで、ORR 活性発現メカニズムを解明することである。今年度は、窒素ドープ炭素還元触媒のモデル試料である窒素ドープグラファイト (N-HOPG) とCO2が吸着したN-HOPGに対して、X線光電子分光 (XPS)、X線吸収分光 (XAS)、ラマン分光、電気化学測定を用いてN-HOPG作製条件の最適化及びCO2吸着状態を明らかにした。また、In situ軟X線吸収分光・発光分光システム開発のために、SPring-8 BL07LSUにおいて差動排気システムの組み込み、400 mmで大気圧から1 × 10-5 Paの高真空までをつなぐことに成功した。申請者は、Mainチャンバーの設計及びその組み立てを行った。N-HOPG作成時に200 Vの低速窒素イオン照射を用いて窒素照射量を制御することにより、窒素照射量が少ない領域において、zigzagエッジや欠陥に含まれる炭素を実験的に初めて観測した。また、低窒素ドープ量ではピリジン型Nとグラファイト型Nはグラファイト面内に完全に置換して存在しており、N-HOPGモデル試料の作製に成功した。作製したN-HOPGに対して、塩基点プローブであるCO2吸着を行いその吸着状態と窒素種の関与に関して調べた。CO2はN-HOPG表面に水平に吸着することがわかり、グラファイト面内に置換された塩基点がN-HOPGに存在すること明らかになった。また、CO2吸着の際に窒素の電子状態変化が観測されなかったことから、CO2が吸着する塩基点サイトは窒素サイトではなく、炭素サイトであることが示唆される結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
放射光施設(SPring-8)を利用してX線分光を駆使し元素由来の電子状態の情報を取得すると同時に、ラマン分光などの振動分光を用いて元素周りの構造を明らかにするなど、分光法を駆使した研究を目指している。平成26年度は、2つの成果を得ており、いずれも論文執筆作業に入った。第1はNのドープサイトの特定、第2は還元サイトの特定である。いずれも分光的な考察から一応の結論に達することができた。一年間の成果として期待通りの進捗状況であり、おおむね順調に進展している。
これまでモデル試料の作製とそのキャラクタリゼーションを行い、その試料を用いてCO2吸着特性に関して研究を行ってきた。しかし、実触媒の触媒活性と比較してモデル触媒の活性がまだ不十分であるため、実触媒を正しくモデル化できているか不明である。今回得られた知見をもとに、グラファイトエッジ部への窒素導入を選択的に行ったモデル試料の作製を行い、より高活性なモデル試料の作製および比較を検討している。また、in situ測定システムは順調に立ち上げが進んでおり、上記モデル試料を用いて大気圧環境下・動作環境下で測定可能なセル設計を進めていく。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 84 ページ: 043201
10.7566/JPSJ.84.043201
Electrochemistry Communications
巻: 50 ページ: 93-96
10.1016/j.elecom.2014.09.015