研究課題/領域番号 |
14J11149
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石黒 千晶 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 芸術鑑賞 / 触発 / 表現 / 創造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、芸術を専門としない総合大学の学生向けに,芸術創造活動へのステレオタイプや苦手意識を取り除く教育プログラムを実践し、大学生が創造性と表現力を発揮するための支援方法を示すことである。 本年度は芸術表現力の獲得過程を検討する上で、まず、芸術作品の鑑賞が表現を触発するという現象に焦点を当て、その現象が生起するメカニズムについてのレビュー論文を執筆した。この触発は、創造の源となる重要な現象であることが指摘されてきたが、これまでその生起メカニズムは科学的に検討されてこなかった。その点で、本研究は芸術などの創造活動の本質に迫る知見を提供すると言えよう。また、この触発体験に影響を及ぼす要因と、その影響の仕方に関する仮説モデルを構築し、質問紙法からモデル検証を行った。その結果、表現経験が触発体験に影響を及ぼす際に、鑑賞態度が媒介変数として役割を果たすことがわかった。 また、表現を積み重ねることが鑑賞行為に及ぼす影響についても実証研究を行った。ドローイングについての省察的実践授業に着目し、その授業が鑑賞過程に及ぼす教育効果について検証した。その結果、授業を通して表現経験を重ねることで、学生の鑑賞中の触発に関わる解釈が促進されることがわかった。これは、触発体験に関するモデルを裏付ける知見であり、芸術表現力を育成する教育実践を提案する上で重要な知見となるだろう。また、これらの知見が示唆する表現の経験や鑑賞態度が触発を促進する効果は、教育活動をデザインする際の指針となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芸術表現力の獲得を促すという本研究の目的のために、鑑賞と表現の関係性を検討した。本年度は鑑賞が表現を促す触発現象に焦点を当て、そのメカニズムについてのレビュー論文を8割方完成させることができた。また、その論文に関連して、触発体験に影響する要因の関係性について質問紙法によってモデル検証した。さらに、教育場面において表現体験を積み重ねることの効果についても実証研究を行った。これらの知見は、学会発表や論文として執筆済みである。 以上の研究状況は、触発に関するレビュー論文の執筆と、それに関する実証研究の実施という当初の研究計画から大きく外れる事なく達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、鑑賞による表現の触発に関わる論文を英語論文として投稿する。次に、この論文で示されたモデルに基づいて、芸術を専門としない大学生を対象にして、鑑賞によって表現の触発を引き起こす心理実験を実施する。さらに、この実験によって得られた知見に基づいて、大学生を対象にして表現を触発する教育活動をデザイン・実施し、その教育効果を測定する。
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