本研究の目的は半導体デバイスを用いて光渦のらせん位相がもたらす軌道角運動量(OAM)を制御することである。半導体デバイスによる光OAMの制御は、OAMを用いた大容量光通信における光源や情報処理デバイスにつながる。本研究では、1. 空間変調光帰還による面発光レーザーのOAM制御および2. GaN励起子系に対する光OAMのコヒーレント変換・保存を行う。
1.について、本年度は面発光レーザーのシングルOAMモード発振に成功した。従来、空間変調光帰還によるシングルOAMモード発振は難しく、出射光には光通信の実装する際の弊害となる他モード成分が混在していた。本年度は、光帰還における戻り光の制御に用いるホログラム回折格子の最適化に努め、現実的な光通信に適用し得る他モード抑圧比で特徴付けられるシングルOAMモード発振を実現した。
2.について、本年度はGaN励起子系におけるOAM緩和メカニズムを明らかにした。昨年度以前における光渦を用いたコヒーレント分光の成果から、フリースタンディングのGaN結晶において、励起子重心運動のOAMはサブナノ秒程度保持されることが分かっていた。これに対し、本年度はc面サファイア基板上GaN薄膜について同様の評価を行い、励起子重心運動のOAMが数ピコ秒程度で失われる(OAM緩和)ことを明らかにした。c面サファイア基板上GaN薄膜の特徴の一つとして大きな欠陥密度を有することが挙げられ、これにより励起子散乱の空間不均一性が顕著であることが考えられる。このような励起子散乱の空間不均一性はOAM緩和を生じるのみならず、そのOAM依存性(昨年度以前に報告)を生じることを理論的に明らかにした。 また、以前から取り組んでいる偏光渦を用いたコヒーレント分光について、本年度は励起子異方性の測定精度、確度、および感度の向上に努め、新規の偏光分光法として確立した。
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