本研究では、これまでホストゲスト化学において溶液中でのホスト分子として用いられてきた分子ピンセット型モチーフを結晶性・液晶性材料へと展開する。 結晶性分子ピンセットは加熱によりジャンプする現象(サーモサリエント効果)を示した。クロロホルム溶液からの再結晶で得られた結晶は、160度付近で激しくジャンプを始める。示差走査熱量測定、熱重量解析により、160度付近でクロロホルム分子の放出を伴う構造転移を起していることがわかった。さらに粉末X線回折測定によりこの構造転移を追跡すると、別途トルエン溶液からの再結晶により得られた結晶構造へと変化していることが明らかとなった。以上から、この結晶性粉末のジャンプは、包接溶媒分子の放出を伴う結晶構造転移に起因していることが示唆された。本研究における結果は報告されているサーモサリエント結晶と異なり、包接溶媒の放出を伴っている点でユニークである。 液晶性分子ピンセットに関しては、昨年度の時点で、ピレンを2枚有する分子が、そのヘキサゴナルカラムナー液晶相においてピレンを有する液晶としては初めて青色発光することが明らかとなっていた。本年度はこの集合構造をより詳細に調べるため、分子構造内におけるピレンを1枚、0枚と減らした分子を合成した。どちらの分子も液晶相を発現したが、ピレンを1枚有する分子が2枚の時と同様に、ヘキサゴナルカラムナー相を示した一方、ピレンを持たない分子は双連続キュービック相を示した。これらの知見とX線回折測定から、カラムナー構造の構築にピレンのスタッキングは関わっておらず、分子内の別の部分の重なりがコアのスタックとして機能していると考えられた。さらに興味深いことに、双連続キュービック相を示す分子に、ゲストとしてピレンを1等量ないしは2等量加えると、ピレンを1枚ないしは2枚分子構造に有する分子と同様に、ヘキサゴナルカラムナー相を発現した。
|