研究実績の概要 |
微生物が菌体内に蓄積するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)はバイオマスを原料とし、廃棄後は環境微生物により分解される環境調和型の生分解性バイオマスプラスチックである。本研究では代表的なPHA生産菌Ralstonia eutrophaを対象として、本菌が有するCO_2固定経路のカルビンサイクルについて従属栄養PHA生合成条件下での機能解明を目指した。本菌のグルコース資化改変株H16G株、カルビンサイクル機能欠失株(cbbLS破壊株)を対象として、[1-^<13>C_1]-グルコースを利用したメタボローム解析を実施した。解析の結果、Rubiscoの基質であるリブロース-1, 5-ビスリン酸の^<13>C標識はH16G株では時間経過に伴って^<13>C標識率が増加し、cbbLS破壊株では減少していた。これにより[1-^<13>C_1]-グルコース由来^<13>CO_2がカルビンサイクルによって再利用される代謝フラックスを示す強固な証拠を得た。エネルギー・還元力の収支から、増殖と連動しない条件ではグルコースに由来するCO_2の固定によりPHAの炭素収率は100%から120%に増加することが推測され、H16G株はcbbLS破壊株と比べて実際の炭素収率が増加していることを明らかにした。 上記の結果から、好気的条件においても代謝経路中の脱炭酸反応によるCO_2をカルビンサイクルによって取り込み、物質生産への再利用により炭素収率の改善達成する手法とできることが期待された。そこでPHA生合成能を持つ大腸菌にR. eutropha由来のカルビンサイクル酵素遺伝子を導入し、物質生産での収率の向上を試みたところ、生産したPHAは1.2倍にまで増加することが示された。現在、大腸菌を用いたイソプロパノール生産およびコリネ菌を用いたグルタミン酸生産においても同様の遺伝子導入を施し、炭素収率の向上を目指した代謝改変を検討している。
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