研究課題/領域番号 |
14J11318
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
則松 桂 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | フェムト秒時間分解分光法 / トポロジカル絶縁体 / 超高速現象 |
研究実績の概要 |
フェムト秒(またはピコ秒)時間分解過渡反射率計測法(ポンプ・プローブ法)を用いて、トポロジカル絶縁体(Sb2Te3,Bi2Te3)の表面電子・バルクフォノンの超高速ダイナミクスを計測した。 まず位相の揃った格子振動(コヒーレントフォノン)の観測を目指し、近赤外領域のレーザー光を用いて格子振動による分極率の変化(10の-7乗程度)の信号を観測可能とする実験装置を組み上げた。特に、偏光依存性を明確に示すことに注力し実験的・理論的に最適条件を見出したことで、Sb2Te3単結晶中のラマン活性な全ての格子振動モードの観測に成功した。面内方向に振動するEg1モードという格子振動モードの観測は世界で初めてであり、論文成果として公表している。 中赤外光を用いた実験においては、近紫外光励起したBi2Te3中の電子緩和過程を、過渡反射率変化の測定により明らかにした。10ピコ秒の間、反射率スペクトルは低エネルギー側に約8 [meV]シフトする傾向を示すことが分かった。また、共同研究によるフェムト秒時間分解電子線回折法では、近紫外励起したBi2Te3中の原子が時間とともに二段階で変位することが分かった。この原子位置変位量をもとにした密度汎関数理論計算からは、10ピコ秒の間ビスマス原子の位置が変位することに起因しバンドギャップが過渡的に狭まることが分かった。以上の結果より、トポロジカル絶縁体Bi2Te3を近紫外光励起すると、原子位置変位により過渡的にバンドギャップを制御することができることが分かった。 従来、トポロジカル絶縁体の電子状態の制御は、圧力や磁場などの外部刺激を印可することにより可能であると知られてきた。本研究の成果は、光を使った電子状態の一時的な制御の可能性を示しており、今後のトポロジカル絶縁体の研究に大きなインパクトを与える成果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、時間分解反射率測定法(ポンプ・プローブ法)を用いて、トポロジカル絶縁体の表面電子・格子の超高速ダイナミクスを明らかにすることを目的とした。格子振動のダイナミクスに関しては、近赤外光を用いた時間分解過渡反射率計測により全4種類の格子振動モードの観測に成功し、各振動モードの振幅や緩和時間等を明らかにした。特に、偏光依存性に注力し、実験および理論的に最適条件を明らかにしたことにより、世界で初めてEg1モードの観測に成功している。また、現段階では結晶内部(バルク)と表面の差異はあまりみられないことが分かっている。 中赤外光を用いた時間分解過渡反射率計測により、ディラックコーン状の表面状態での電子密度の時間変化を捉えた。この結果は、共同研究であるフェムト秒時間分解電子線回折と密度汎関数理論計算の結果を踏まえることにより、ビスマス原子の変位によって過渡的に(約10ピコ秒間)バンドギャップが狭まっていることを示唆している。 本研究課題を遂行する上で、表面電子・格子超高速現象の解明により光を用いてバンドギャップを制御することが可能であることを示したことは、期待以上の成果であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、近紫外励起したトポロジカル絶縁体Bi2Te3の表面電子ダイナミクスを捉えることに成功している。この成果を踏まえ、今後は測定波長(プローブ光波長)領域内にプラズマエッジをもつトポロジカル絶縁体Sb2Te3を用いて実験を行い、より明確で正確なスペクトル波形を得て議論していく計画である。 さらに、今後はトポロジカル絶縁体のもつ大きな特徴のひとつである表面スピンに着目する実験を行う予定である。円偏光を用いて、右向き(または左向き)のスピンを選択的に励起した状態をつくり、スピンを含めた表面電子の挙動について明確にしていく。 本研究課題は、電子・格子相互作用に着目し、ダイナミックにトポロジカル絶縁体の物性の本質解明にアプローチする。
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