トポロジカル絶縁体は、バルクは絶縁体だが物質表面は金属状態が生じている新奇な物質状態をもつ。トポロジカル絶縁体を次世代のデバイスとして応用するために、この特異な表面電子のダイナミクスを知ることが重要である。本研究では、電子-フォノン双方の観点から光励起ダイナミクス(緩和時間やその過程)を調べることを目的とし研究を行った。本年度は、p型のトポロジカル絶縁体Sb2Te3を用いた時間分解過渡反射率測定法を用いて、光励起における表面電子のダイナミクスをバルクのキャリア応答を通して調べた。本実験では、近赤外域(1.5eV)の光をポンプ光に、中赤外域(0.12eV-0.26eV)の光をプローブ法に用いたポンプ・プローブ法により、フェルミエネルギー近傍の過渡反射率変化を測定した。過渡反射率変化をDrude-Lorentzモデルを用いて解析したところ、初期応答はプラズマエッジを境に低エネルギーの光で観測したときは減少し、高エネルギーの光では増加することが分かった。この結果は、光励起直後1ps以内に表面状態に電子が供給されることによりドルーデ重率(プラズマ周波数)が過渡的に減少し、プラズマ周波数が低エネルギー側へシフトしたことが原因であると考えられる。p型のSb2Te3単結晶では、光励起によってできた非平衡状態により表面近傍に電子が供給され、1ps以内にキャリア密度の減少によりプラズマ周波数が低エネルギー側へシフトしていることが確認された。光励起電子の緩和時定数は約3.3psであり、これは一般的な半導体GaAs(1ns)に比べて非常に速く、また、同様にディラックコーンをもつグラフェンと同程度(3ps)であるということが分かった。この速い電子緩和は、ディラック型分散の表面状態をもつことに起因していると考えられ、トポロジカル絶縁体特有の性質を捉えることに成功したと考察される。
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