当該年度における研究では,大規模複雑ネットワーク上で時間発展する線形な動的システムに対して,設計者によって指定された局所的な状態を推定する低次元オブザーバの設計法を提案した.本手法は,事前に設計された所望の推定性能をもつ最小次元オブザーバを適切に近似するオブザーバ低次元化のアプローチに基づくものである.本研究では,低次元オブザーバの次元と推定性能の劣化とがトレードオフの関係にあることを理論的に明らかにしたうえで,所望の推定性能を満たすような低次元オブザーバの系統的な設計法を与えている.さらに,従来法により設計されるオブザーバと同程度の推定性能を有しながらも計算効率のよい低次元オブザーバが設計できることを数値的に示した. しかしながら,この手法ではネットワークシステム全体の状態を推定するオブザーバを設計することは理論的に困難であるという問題が生じたため,先の手法と異なるアプローチに基づき,ネットワークシステム全体の巨視的な振る舞い(平均状態)を推定する平均状態オブザーバの設計法を提案した.一般には,どのように状態を平均化すればネットワークシステムの巨視的な振る舞いを適切に捉えることができるか非自明であることに対して,本研究では,所望の推定誤差以下となるように似た振る舞いを示す状態集合を適切に決定するとともにそれを推定するオブザーバの系統的な設計アルゴリズムを開発した.さらに,提案手法を1001次元の大規模ネットワークシステムへ適用し,大幅に低い次元を持つ61次元の平均状態オブザーバにより,ネットワークシステムの巨視的な振る舞いが適切に推定されていることを確認した.さらに,この手法を一般化し,局所的な状態推定と平均状態推定とを統一的に扱うことのできる枠組みとして,射影型状態オブザーバを提案した.
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