研究課題/領域番号 |
14J11349
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
前田 歩海 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / 香辛料 / シグナル伝達 / サフラナール / ピペリン |
研究実績の概要 |
本研究では、インスリン抵抗性を惹起するプロテインチロシンホスファターゼ(PTP1B)を阻害する食品成分を探索し、分子レベルでその阻害メカニズムを解明することで、科学的根拠に基づいた糖尿病を予防・改善する新たな機能性食品の創出を目的とした。 食品成分によるPTP1Bの翻訳後修飾構造に対するマウスモノクローナル抗体の作製を検討した。サフラナールを付加させた抗原をBalb/cマウスに腹腔内投与し、十分に抗体価が上がったことを確認した後、脾臓を摘出しP3マウス骨髄腫細胞とフュージョンさせたが、抗体の作製はうまくいかなかった。 サフラナールの体内動態を評価するために2型糖尿病モデルKK-Ayマウスに20 mg/kg body weightのサフラナールを経口投与し、30分後に採取した血漿をGC/MSにより解析したところ、4.3 ± 2.5 μMのサフラナールが検出された。つぎに20 mg/kg body weightのサフラナールを2週間経口投与した。2週間後に実施した経口グルコース負荷試験(OGTT)の結果、サフラナール群においてグルコース負荷30分後の血糖値がコントロール群に比べ有意に減少した。 これまでにブラックペッパーおよびホワイトペッパーの主辛味成分であるピペリンがAMPK経路を介してグルコース輸送担体であるGLUT4の膜移行を誘導することを明らかにした。AMPKの活性化にはLKB1を介する経路とカルシウムの濃度変化を介する経路が知られている。ピペリンを筋管細胞に作用させ、LKB1のリン酸化を検証したところ、リン酸化は認められなかった。一方、ピペリンのグルコース取り込み促進効果は、カルシウムキレート剤であるBAPTA-AMを共作用させることでキャンセルされた。したがって、ピペリンはカルシウムの濃度変化を変化させることでAMPKを活性化する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は香辛料成分の生体内における効果について検討することを目標としており、おおむね計画通りに進んだと考えている。細胞内におけるサフラナールとPTP1Bの修飾機構を明らかにするため、マウスにサフラナール付加タンパク質を腹腔内投与し、サフラナール付加タンパク質抗体の作製に取り組んだ。また、サフラナールをマウスに経口投与すると体内に吸収されることを明らかにした。経口グルコース負荷試験の結果、サフラナールが耐糖能を改善することが確認できたため、サフラナールが抗糖尿病効果を有することが示唆された。さらに、ブラックペッパーおよびホワイトペッパーの辛味成分であるピペリンのグルコース取り込み促進作用の機序解明を行った。ピペリンを筋管細胞に作用させるとカルシウムの濃度変化を介してAMPKのリン酸化を引き起こし、グルコース取り込みを促進することを明らかにした。サフラナール付加タンパク質抗体については今後も検討する必要があるが、サフラナールの生体内における効果を示し、ピペリンのグルコース取り込み促進作用の機序を詳細に検証した点から、研究に進展があったと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2型糖尿病の主因はインスリン抵抗性状態であり、インスリン抵抗性状態を改善する食品中の成分が注目を集めている。そこで、今後の研究では、グルコース取り込み促進効果を見出した香辛料成分のインスリン抵抗性状態における効果を明らかにしたいと考えている。 培養筋管細胞をパルミチン酸処理することでインスリン抵抗性状態を誘導し、グルコース取り込み促進効果を有する香辛料成分を作用させ、インスリンシグナル経路およびAMPK経路についてウェスタンブロット法により検証する。 C57BL/6マウスに高脂肪食を摂取させることで肥満状態を誘導する。肥満状態のC57BL/6マウスにグルコース取り込み促進効果を有する香辛料成分を経口投与し、糖尿病マーカー(血糖、インスリン、トリグリセリド等)を測定する。さらに、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)における血糖値の変動を測定し、香辛料成分の抗肥満、抗糖尿病効果を測定する。 さらに、当該年度の研究において、グルコース取り込み促進効果を有するピペリンがカルシウムシグナルを介することが明らかとなった。そこで、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFura2-AMを用いて、細胞内におけるピペリン誘導性のカルシウム濃度上昇を観察する。また、ピペリンによるカルシウム濃度変化が受容体を介するのか、細胞内において効果を発揮するのかを各受容体の発現をノックダウンすることによって明らかにする。特に、ピペリンはTRPV1受容体を活性化することが報告されており、TRPV1受容体はカルシウムを細胞内に取り込む働きをすることから、ピペリンによるTRPV1受容体を介したグルコースの取り込みが起こるかどうかを検証していきたいと考えている。
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