研究課題/領域番号 |
14J11387
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
大野 聖良 フェリス女学院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 在留資格「興行」 / 外国籍移住女性 / 入管政策 / エンターテイナー / 日比 |
研究実績の概要 |
本年度は(1)文献調査、(2)インタビュー調査、(3)海外調査準備、(4)成果発表を行った。 (1) 文献調査:①財団法人入管協会発行『国際人流』(1987年~2015年)を対象に、「興行」をめぐる行政の問題認識の変遷と、在留資格「興行」で来日した女性にとって隣合わせであった「不法就労・資格外就労」問題の変遷を調査した。なお、本調査は前年度までの文献調査を補うものである。1990年代までの法務省入国管理局の「興行」に関する言説は限定的にしか把握できなかったが、本調査で入管行政の問題関心を長期にわたり辿ることができた。②入管政策に関する複数の学問分野の先行研究の整理・分析から、在留資格「興行」の学術的位置づけを調査した。就労可能な在留資格、特に「高度人材」導入の議論で「興行」は例外的労働として排除された経緯が明らかになった。 (2)インタビュー調査:外国籍(女性)支援運動の変遷と現状を把握するため、本年度はNGO「人身売買禁止ネットワーク」運営委員にインタビューを実施した。調査を通じて、運動内部の問題意識や運動の担い手の変化を捉えることができ、次年度のインタビュー対象者を特定する上で有用なものとなった。 (3)海外調査のための準備調査:次年度実施予定のフィリピンでの調査準備として、NPO「JFCネットワーク」主催のスタディーツアーに参加し、かつて在留資格「興行」で来日した元エンターティナー女性とJFC(日比国際児)の支援団体等で参与観察・聞き取りを行った。女性たちの来日までの背景や現在の生活状況など、日本への移動経験が女性たちの生活にどのように表れているのかを、母子や団体スタッフへの聞き取りや参与観察を通じて考察でき、次年度の調査内容を吟味する上で極めて重要な調査となった。 (4)成果発表:これまでの研究成果について、著書(共著)・査読付き論文・学会等での口頭発表で研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
在留資格「興行」に関する行政文書は散在しており、学術分野における議論も断片的であるなか、前年度までの調査では十分把握できなかった在留資格「興行」に関する行政の動向を、その他の入管政策と関連させながら幅広く把握できる資料を収集・整理することができた点で、現在までの文献調査は本課題の最終目的である「ジェンダー化されたセキュリタイゼーション」の理論化に大きく近づいたといえる。また、次年度の調査のための準備も行ったが、特にフィリピン(マニラ・ダバオ)での事前調査では現地NGOを訪問し、NGOスタッフや元エンターテイナーの女性への聞き取りから、女性自身の滞日経験や帰国後女性たちが直面してきた問題についての知見を得ることができた。またNGOを介して元エンターテイナー女性の家庭を訪問・宿泊する機会を得、女性の日常生活から、送り出し国フィリピンにおける「国際移住労働の女性化」のひとつの帰結をみることができた。この予備調査は、調査対象者・内容の吟味や調査関係者との信頼関係の構築、支援実務家や他分野の研究者とのネットワーク構築という点から次年度の調査の実現可能性を高めただけではなく、在留資格「興行」という制度を「移動する女性」の経験を交えて多層的に捉えるという、本研究の分析に必要不可欠な視点を得ることができた。さらに、これまでの研究成果として、図書(共著)1件、査読付き論文(大学紀要)1件、学会等での発表2件を公開することができた。以上から、本年度は研究を着実に実行することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まず現在までに実施した文献調査から得た一次資料のさらなる分析を進める。そのために、本研究の鍵概念であるミシェル・フーコーの「生権力」概念が近年の移民政策研究においてどのように議論されているのかを、文献調査から精査してゆく必要があると考える。また、現在まで入管政策や「興行」に関する文献調査を中心に実施したため、次年度は在留資格「興行」に関する入管政策に関与したと考えられる次の3点について調査を実施する。①米国国務省について、同省が牽引するanti-trafficking政策において日本における外国籍女性の「興行」がどのように認識されていたのかを、駐日米国大使館の資料室等で資料収集を行い考察する。②フィリピン政府・NGOについては、既に実施した事前調査に基づいて、在留資格「興行」の政策変遷に送り出し国社会がどのように関与していたのかを明らかにするため、フィリピンの行政やNGOで資料収集、およびNGO関係者へのインタビュー調査を実施する。③日本の招聘業界団体について、国内の唯一かつ最大の業界団体に対し、外国籍移住女性による「興行」についての業界内の認識と、同業界の「健全化」の取り組みについて調査を実施し、在留資格「興行」をめぐる日本の行政やNGOとは異なる力学を明らかにする。以上の調査を土台に、「ジェンダー化されたセキュリタイゼーション」を検証し、研究会や学会での研究発表を行いつつ、これまでの研究成果を統合した学術的単行書の刊行を目指す。
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