研究課題/領域番号 |
14J11425
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
倉知 明史 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | イオン液体 / 希土類 / その場赤外分光 / 電気化学 / 電解析出 / 界面現象 |
研究実績の概要 |
昨年度は金属イオンを含まない4級ホスホニウムをカチオンとするTFSA型イオン液体と電極との界面における電位応答をその場表面増強赤外分光法により観測した。本測定では半円筒型Siに蒸着させたAuを電極として使用した。この電極とAu円板電極で得られるサイクリックボルタモグラムを比較した結果、大きな差異は見られなかった。またAu円板電極を利用して零電荷電位を測定した結果、Fc/Fc+基準で-0.35 Vである事が判明した。 その場表面増強赤外分光測定では電位を一方向にステップさせるSPA方式を利用した。この方式では界面状態を安定させるためにスペクトル測定前に60秒間の電位保持時間を設けた。得られたスペクトルのうち、2950 cm-1付近に現れるP2225+のアルキル鎖のC-H伸縮振動、1360 cm-1付近のTFSA-のSO2逆対称伸縮振動、1230 cm-1付近のTFSA-のCF3伸縮振動の吸収バンド強度を電位に対してプロットした所、負方向への電位ステップ時には零電荷電位よりも約0.6 V負な電位においてバンド強度が急激に変化した。また-2.3 Vから正方向への電位ステップ時には零電荷電位から約0.2 V正な電位からバンド強度が変化した。この様な吸収バンド―電位曲線のヒステリシス挙動はイミダゾリウム型カチオンとTFSAアニオンから成るイオン液体でも観測されている。 このヒステリシス挙動に関してさらなる知見を得るため、電位掃引方式でその場表面増強赤外分光測定した。この方式で得られた吸収バンド強度―電位曲線は、負方向への掃引時にはSPA方式と類似の挙動であった、ただし、電位折り返し後もカチオン由来の吸収バンド強度は増加し続け、アニオン由来の吸収バンド強度は減少し続けた。これは界面近傍におけるカチオンとアニオンの緩和が遅く、電位に対する応答が遅れているためであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、金属イオンを含まないイオン液体と金属電極との界面を対象として研究した。その結果、これまで報告されているその場表面増強赤外分光スペクトルとは異なる挙動が観測された。本研究で使用されているイオン液体の粘性はこれまで研究されてきた1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと比較して高く、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルサルフォニィル)アミドと比較して低い。従って、粘性とは関係なく界面近傍におけるイオンの輸送が遅いためと予想された。電位ステップ後の電流減衰挙動及び、その場表面増強赤外分光スペクトルの経時変化から、上述の予想の正当性が裏付けられた。イオン液体の構成種による界面挙動の違いは分子構造の違いやイオン―イオン間、イオン―電極間相互作用に由来すると考えられる。 また、計画には含まれていなかったが、希土類イオンの静的構造に関する知見を得るため、赤外透過吸収スペクトルの吸収バンド強度の希土類イオン濃度依存性から、TFSAをアニオンとするイオン液体中における希土類イオンの溶媒和数を算出した。その結果、これまで報告されてこなかった希土類イオン濃度と溶媒和数との関係性が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
年次計画に対して本研究の進行はやや遅れている。昨年度は金属イオンを含まない4級ホスホニウムをカチオンとするTFSA型イオン液体と金属電極との界面についての研究から、イオン液体構成種による界面挙動の違いについて知見を得る事が出来た。今後は希土類イオンを溶解させ、電極反応が進行中の界面について研究をすすめる他、電析時の表面形態変化が赤外スペクトルに与える影響を調査する予定である。Euはこれらを観察するのに最も良い希土類種であると考えている。その理由として、3価及び2価の酸化還元反応をイオン液体の電位窓の範囲内で観察する事が可能であり、かつより負な電位では金属析出反応が進行するためである。時間が限られているため、Euイオンについての研究を推進する予定である。
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