本研究の目的は、日本における「生活教育」概念形成の特質について、ヨーロッパ的な「生」の概念との関係性に注目しながら、解明することである。とりわけ、本研究では、オヴィド・ドクロリーと上沼久之丞の教育思想に注目する。平成27年度は、以下の2点を中心的に検討した。 1.O.ドクロリーの“vie”概念についての検討:本研究の目的の遂行において、ドクロリーの思想を手がかりとして、ヨーロッパ的な「生(vie)」概念を把握することは重要な位置を占めている。従来の研究においてドクロリーの“vie”は、日常的・特殊的な観点から理解されることが多かった。本研究では“vie”を観念的・思想的な観点から検討することによって、“vie”には、日常的・特殊的な「生活」という意味だけでなく、生物学的「生命」、倫理的「生」という意味もあることを明らかにし、“vie”概念を重層的に捉える必要性を指摘した。ドクロリーの“vie”概念の検討は、昨年度から引き継いだ課題である、19世紀末から20世紀前半のヨーロッパの思潮の中にドクロリーの思想、とりわけ「全体化」概念を位置付けるという作業の一部をなすものである。ドクロリーの“vie”概念について検討した一部を、フランス教育学会で口頭発表した。 2.上沼久之丞の教育思想における「表現」概念の検討:上沼と同時代の教育(学)者や哲学者の思想を比較検討することを通して、上沼の思想の特質を浮かび上がらせるという作業は、昨年度から引き継いだ課題である。これに取り組むために、今年度は上沼の「表現」概念に注目しながら、ドクロリーはもちろん、木下竹次や西田幾多郎の思想との比較検討をすすめた。 また、本年度は、木下竹次と上沼の交流に関する資(史)料調査(於、奈良女子大学附属小学校)を実施した。
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