研究課題
当研究課題の目標は,人間の社会的認知の根幹をなす,道徳能力の神経基盤を解明することである.特に,他者に対して心的帰属を行う計算メカニズム(いわゆる「心の理論」)に関わる脳部位と道徳的判断に関わる計算メカニズムを担う脳部位の同定を行い,それらの相互作用の解明を目指す.そのために哲学において議論されてきた「副作用効果」に注目する.さらに,心的帰属に困難を抱えているとされる自閉症スペクトラム障害 (ASD) の被験者を対象に実験を行い,副作用効果の有無,また,その神経基盤も検討する.副作用効果をその他の要因を排除して検証するために,810 通りのシナリオを作成した.こうした多数のシナリオに基づいて副作用効果を検証する実験は世界でもまだ類を見ないものである.昨年度行った大学生を対象にした予備実験を元に,刺激提示のパラメータや追加の課題などを検討した.東京大学先端科学技術センターとの連携を進め,ASD 群の被験者のリクルートを行い,16 人を対象に fMRI 実験を行い,データを取得した.また,ASD 群と定型発達群(統制群)との比較を行うためには,年齢,性別,IQ を統制する必要がある.そこで,通常の大学生を対象とするのではなく,一般に広く募集を行い,幅広い年齢・IQ の被験者をリクルートし,34 人の IQ を計測した.また,その中から ASD 群の IQ と年齢の分布に合わせて定型発達群の被験者 8 名を対象として選別し,ASD 群の被験者を対象とした fMRI 実験と同様の手順に基づき,fMRI 実験を行い,データを取得した.行動データの解析を行ったところ,ASD 群,定型発達群の双方で,これまで検討されてきたシナリオ以外においても,副作用効果を確認することができた.副作用効果は,日本語圏でもロバストに観察されると言える.
2: おおむね順調に進展している
ASD 群の被験者のリクルートは順調に進行した.定型発達群の被験者は,統制を取るため,通常の大学生の被験者ではなく外部からリクルートを行う必要があり,手続きに手間取ったが,無事年内にリクルートが完了した.ASD 群と定型発達群との予備的な比較で興味深い結果が得られており,最終年度での成果が期待される.
ASD 群,定型発達群の被験者リクルートを進め,最終年度前半にデータ取得を終了するとともに,並行して解析を進める.また,8月の第39回日本神経科学大会,11月の Society for Neuroscience にて成果を発表し,年度後半での論文投稿を目指す.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)
化学史研究
巻: 42(3) ページ: 167-169
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/members/data/iijima_kazuki/
http://wired.jp/innovationinsights/post/wired/w/language_creation/