本年度では、弱値および弱測定の量子測定理論としての数学的基礎を整理し、またその上で測定に不確かさのある場合の数学的な定式化を行いました。 前者においては、弱測定を「条件付測定」として捉える際の一般論の展開ですが、この過程で弱値には「擬同時確率分布」と呼ばれる、ある種の一般化された確率概念が自然に組み込まれていることが判明し、またこれらが従来より広く用いられている Wigner 関数や Kirkwood 関数等の概念に、統一的な視点を与えることが分かりました。その上で、「擬同時確率分布」は、物理量の統計的解釈を可能にすると同時に幾何学的な構造を与えることが判明し、これにより弱値の「直交射影=条件付期待値」としての解釈が可能となりました。さらに、その上で量子推定を含む新たな不確定性関係を確立し、これが通常の位置と運動量の不確定性関係のみならず、時間とエネルギーの不確定性関係を議論する際にも適用される広い応用範囲を持つことや弱値概念と密接に関連していることも明らかになりました。 後者においては、弱測定を有効に利用した精密測定実験として広く知られるSHEL実験について、不確かな量子測定の理論に基づいた誤差評価を行いました。この結果として、弱測定とは統計誤差を犠牲にすることで測定の不確かさの低減の試みるという、両者のトレードオフ関係を有効に利用した測定法であるという主張が数値計算によっても裏付けられ、また誤差の評価は実験の結果とも整合的であり、実験の成功をうまく説明できることが分かりました。
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