本研究では、2つのアントラセン環からなる芳香環パネルを有する独自のV型両親媒性分子を用いた疎水性分子の水溶化を目指した。本年度は、フタロシアニン金属錯体の簡便な水溶化を達成した。 V型両親媒性分子とフタロシアニン銅錯体を固体状態でグライディングした後、得られた固体に水を加え、不溶な固体をフィルターで除去すると、フタロシアニン銅錯体の水溶化により青色に呈色した溶液が得られた。この水溶液のUV-visスペクトルでは、フタロシアニン銅錯体に由来するブロードな吸収帯が500~800 nmに観測された。この水溶液のDLSを測定すると、約2.0 nmに由来する粒径が観測された。分子力場計算による生成物構造の予測から、およそ2分子のフタロシアニン銅錯体がスタッキングして、約6分子の両親媒性分子からなる芳香環ミセルに内包されていることが判明した。 フタロシアニン骨格内のベンゼン環をナフタレン環に置き換えたナフトシアニン銅錯体やフタロシアニンを多量化させたフタロシアニン銅錯体ポリマーは、2 nmを超える巨大なπ平面を有しており、これらを効率良く溶解できる溶媒は、強酸に限定されている。本研究の芳香環ミセルを用いた溶解法では、不溶性の巨大分子なナフトシアニン金属錯体およびフタロシアニンポリマー金属錯体を簡便に水溶化し、溶液の呈色とゲスト由来の吸収帯がそれぞれ観測された。 フタロシアニン銅錯体の内包体の水溶液をガラス板にドロップキャストした後に、乾燥および洗浄を行うだけでガラス板上に青色の薄膜が得られた。この薄膜のUV-visスペクトルは、アントラセン由来の吸収帯は観測されず、純粋なフタロシアニン銅錯体のみから成る薄膜が、効率良く得られることが明らかになった。また、フタロシアニン銅錯体の内包体の水溶液にメタノールを添加し、この溶液から遠心分離により、フタロシアニン銅錯体を回収することに成功した。
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