研究課題/領域番号 |
14J11524
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
藤井 達也 兵庫県立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 単結晶シリコン / ナノワイヤ / 引張試験 / 機械特性 / 集束イオンビーム / 高真空アニール / in-situ SEM / NEMS |
研究実績の概要 |
本研究では,完全表面・完全結晶を持つ単結晶Siナノワイヤの作製技術とナノスケール材料の機械特性評価技術を確立し,加工によるプロセス効果を含まない機械特性のサイズ効果を解明することを目的としている.初年度となる平成26年度,2つの課題を中心に研究を実施し,下記の成果を挙げた. (1)ナノワイヤ用高性能デバイスの設計開発 Siナノワイヤの材料試験の精度向上と実験の歩留まり向上を目指し,引張試験用MEMSデバイスを新たに設計開発した.デバイスは,1)デバイス搬送時の振動から試験片を保護するための固定機構,2)変位計測用静電容量センサのノイズを低減するための絶縁機構,3)荷重計測精度を向上するためのロードセル校正機構の3つの新機構を有しており,駆動実験により全ての機構が設計通りに機能することを確認した.また,SEM内でデバイスを駆動するための独自ホルダを設計開発し,引張試験中のナノ試験片をその場観察できる実験システムを構築した. (2)FIB加工Siナノワイヤのアニール結晶回復 本研究ではこれまでに,FIB加工で作製したSiナノワイヤの引張試験を実施し,FIB加工により形成される加工変質層が機械特性に及ぼす影響を定量評価してきた.今年度は,FIBダメージ層の結晶回復を目的として700℃の高真空アニール処理を実施し,上記システムを用いて引張試験を実施した.FIB加工Siナノワイヤのヤング率は単結晶Siの理想値よりも22%低く,アニール処理によりヤング率は理想値まで回復した.また,破壊強度はアニール開始直後に大幅に低下し,アニール時間の増加とともに徐々に回復した.これら試験結果とTEM観察結果をもとにアニールによる機械信頼性回復メカニズムを検討し,アニール処理に伴うGa排出とSi再結晶化のプロセスを実験的に評価することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り,引張試験用MEMSデバイスとSEM内デバイス駆動用ホルダを新たに開発し,引張試験中のナノ試験片をその場観察できる実験システムの構築を完了した.実験システムには,SEM画像を用いた変位計測プログラムも実装済みであり,目標に到達したと言える.この実験と平行して,Siナノワイヤの機械特性に及ぼすFIB加工ダメージと高真空アニールの影響評価を進めており,完全表面・完全結晶を持つ試験片作製技術を確立するための予備実験もほぼ目標としていたところまで到達した.しかし,次年度に着手する計画であったTEM内ナノ引張試験システムの開発に関しては,既製TEMホルダの購入や改造に必要な費用の目途はついておらず,システムの構築は困難な状況である.以上の観点により,研究目的の達成度は概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度,まず,完全結晶・完全表面の試験片作製技術を確立する.試験片作製には,先行研究で得られた知見を反映し,加工技術の違いによる表面性状と結晶構造への影響を把握した上で最適な作製工程を検討する.これらの知見はサイズ効果に関する文献の考察や,自身の実験データと比較する上でも重要となる.なお,作製工程の各段階におけるナノワイヤをTEM観察することにより,試験片に導入されるダメージ量や欠陥(ナノクラックやナノドット)の有無を確認し,完成したナノワイヤにそれらが含まれないことを確認する.作製完了した完全結晶・完全表面を持つ単結晶SiナノワイヤをFIBで切り出し,それをFIBのプローブマニピュレーション機能と薄膜デポジション機能によりMEMS引張試験デバイスへと固定する.サンプリングする際,新たなダメージの導入を防ぐため試験片をFIB観察しないように注意する.固定後,SEM内でナノワイヤの引張試験を実施し,機械特性(ヤング率や破壊強度)と電気特性(導電性やピエゾ抵抗係数)を実測するとともに,ナノワイヤに引張負荷を与えた状態での変形挙動ならびに亀裂進展のその場観察を実施する.この実験結果をもとに,単結晶Siのナノスケールにおける機械特性のサイズ効果を考察・議論する.また,ヤング率のサイズ効果の実験的解明を目標に,固体力学等で用いられる連続体概念が適用できる限界寸法(=量子効果が現れる寸法)の特定を目指す.
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