研究課題/領域番号 |
14J11547
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小林 正樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬基盤研究部門, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | フタバガキ / 国際研究者交流 / マレーシア |
研究実績の概要 |
東南アジア熱帯雨林に生息するフタバガキ科植物の多くは羽状器官を持った果実を形成し、それがプロペラのような役割を果たすことで風散布が行われる。一方で、フタバガキ科植物の中には二次的に羽状器官を失った種も存在する。そこで本研究課題では、フタバガキ科植物の果実にできる羽状器官の発生およびその喪失機構の理解を目指し、以下のような研究を行った。 まず羽状器官の発生機構を形態的に理解するため、羽の伸長がどのように起こるのかということを、数理モデルを用いて解析した。フタバガキ科植物の1種であるShorea kunstleriの羽の経時観察データについて、以下の二点を仮定しモデルを作り、実際の観察データと比較した。仮定1:羽の成長はよく成長する領域から生産される拡散性の成長因子の濃度よって決定する、仮定2:この拡散性の成長因子の生産は羽の成長とともに減少する。その結果、モデルは実際の形態測定データとよく似た成長パターンを示した。このことから、羽の伸長はある拡散性の成長因子によって制御されている可能性が考えられた。 次に、羽状器官の発生および喪失機構を遺伝子のレベルで解析した。昨年度、網羅的な発現解析により羽状器官の形成に関わる複数の候補遺伝子を同定していた。羽状器官を二次的に失った種では、これらの候補遺伝子のいずれかの機能を失っている可能性が考えられる。そこで本年度は、次世代シークエンサーを用いて、羽を持つ種1種と持たない種4種においてゲノムのリシークエンシングを行い、これらの候補遺伝子群の中から機能喪失型変異を持った遺伝子を探索した。その結果、候補遺伝子の中に羽を失った種で特異的に機能を失ったと考えられる遺伝子が存在することが分かった。 今後は候補遺伝子について、発現パターンと形態データとの比較や、より多くの種を用いた解析により、羽状器官の形成・喪失に関わった可能性についてさらに検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フタバガキ科の植物の多くは、数年に一度起こる一斉開花の後にしか果実を形成しないため、数理モデルに利用する羽状器官の経時観察データの取得が困難である可能性も懸念された。しかしながら2014年に一斉開花が起こり、予想以上に多くの経時観察データを得ることができたため、困難が予想された数理モデルによる解析も実現することができた。 また、シロイヌナズナやイネに代表されるようなゲノム解析の進んだモデル植物と比較し、フタバガキ科植物はゲノム情報が現時点ではそれほど豊富ではない。そのため、次世代シークエンサーを利用したゲノムのリシークエンシングデータから、挿入、欠失、ストップコドンへのアミノ酸置換などの機能喪失型変異を見つけるためには多くの時間が必要であることが予想された。しかしながら、共同研究者と進めてきたフタバガキ科植物のゲノムプロジェクトの進展により、フタバガキ科植物における遺伝子セットを利用することが可能となり、解析時間の大幅な短縮が可能となった。 これらの理由から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、羽状器官の喪失に関わった可能性のある候補遺伝子が単離されてきた。フタバガキ科の中には、羽状器官を二次的に失った種が複数存在するが、これまでの解析に利用していない種もまだ多く存在する。そこで、これまでに得られている候補遺伝子について、機能喪失型変異の有無をより多くの羽を失った種を用いて調べていくことを検討している。 また、羽状器官の形態データおよび数理モデルから、羽の成長を制御していると考えられる領域が同定されてきた。そこで、候補遺伝子の発現領域を詳細に調べることにより、候補遺伝子の発現部位が羽の成長領域と一致するかどうかについても検討していく。 そして、上記の二つの条件を満たすような候補遺伝子が見つかった際には、候補遺伝子の配列を種内および種間で比較することにより、機能喪失変異が生じた時期の推定や、自然選択の痕跡の有無を調べることにより、羽の喪失時期や羽を失うことが適応的であったのかということについても検討したいと考えている。
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