脳卒中など損傷により障害を受けた麻痺側を積極的に利用することは、麻痺側の機能回復にとって重要なポイントとなる。しかし、麻痺患者が麻痺側を無意識に利用することは難しい。また、自分がどのように動かし、どれほど動かしているかという運動の感覚が、障害を受けると、麻痺側の利用や学習に悪影響を及ぼすと考えられる。 そこで、麻痺側の利用の強化、麻痺側の運動の正確な認知につながる端緒として、本研究では健常者を用いて、①両肢選択に影響を及ぼしている脳活動の特定と、②運動を行っているという状態の脳内表現の特定、という二点の検討を行った。 両肢選択においては、通常、ターゲットとなる運動遂行の対象の位置など、さまざまな要素が複合して最終決定となる。本研究では意思決定との関連が示唆されている自発脳活動に着目し、自発脳活動と、運動課題の情報がどのように統合し最終的な運動意思決定となるかの過程を検討した。結果、意思決定に悩むほど先行する自発脳波活動の影響が強く、一方簡易に意思決定ができるほど課題の情報が先行脳活動を上書きするように意思決定に影響することが分かった。一方、こうした先行した脳の状態は、俊敏な反応速度との関連は見受けられなかった。ある左右手の選択は、先行する自発的脳情報により影響を受けるものの、反応の運動自体を促進するものではないことがわかった。 次に運動を自己が行っているという主体的な感覚や動いているという感覚がどのように表現されているかをfMRIを用いて検討した。運動感覚は右の前頭頭頂により表現されており、これらの領域が実際に上縦束という白質繊維束により結びついた領域であることが分かった。また、どれほど動いたかという運動の量の認知と、領域の活動量の相関が示された。右の頭頂や前頭がそれぞれ運動の主体感に影響する先行研究と合致するとともに、運動感覚の右半球の重要性を明らかにした。
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