研究課題/領域番号 |
14J11748
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
渡辺 亮 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 基礎研究 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は副作用を伴わずに痒みを抑制する手法の確立である。痒みは日本国内に約35万人の患者を抱えるアトピー性皮膚炎を代表に、乾皮症や腎不全、糖尿病等様々な病気の症状として知られる。しかし、現在一般的な痒みの治療法は少なからず副作用の危険性を持つ。その中で、副作用を持たない鎮痒(痒みの抑制)手法は重要な意義を持つ。申請者は特に痛みの提示による鎮痒効果に着目した。 痛みが痒みを抑制するということは以前から知られていたが、本研究の新規性は温度刺激や電気刺激等、皮膚を損傷することなく痛覚を生起できることが明らかにされている刺激を使用する点にある。また鎮痒に利用可能と考えられる錯覚現象の性質の解明についても積極的に行った。本年度に研究対象とした錯覚現象として、皮膚上の2つ以上の部位において温度刺激と触刺激が同時に提示されたとき、触刺激提示部位にも温度感覚が生じる錯覚現象Thermal referral(TR)が挙げられる。具体的には上半身において、2刺激の位置関係がTRの生起に大きく関わることを心理物理実験により明らかにした。また、TRが一部の触錯覚現象によって生じる錯覚像に対しても生起することを心理物理実験により明らかにした。 このほか、10℃程度の温度変化を皮膚に提示することで圧覚や吸い付くような感覚を生起する錯覚現象を発見し、その性質の検証を行った。本現象は鎮痒手法としての応用の可能性を有するのみならず,現象の発見自体がサイエンス的な面で非常に大きな意義をもつ。 以上の研究成果について、3件の国内学会および1件の国際学会発表を行ったほか、現在学会論文誌に1件投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,温度錯覚現象 Thermal referral の性質に関する研究,急速な温度変化による圧覚の生起現象など,本課題,「副作用を持たない鎮痒手法に関する研究」に関連した多くの研究,主に痒みに密接に関係する温度感覚についての研究を手がけ,その結果3件の国内学会および1件の国際学会発表を果たした. 温度錯覚現象 Thermal referral(TR)とは皮膚上の2つ以上の点に温度刺激と触刺激が同時に提示されたとき,触刺激提示部位にも温度感覚が生じる錯覚現象である.TRはその性質について不明な点が多くある.TRの鎮痒手法への応用のために,それらの性質の解明を試みた.具体的には,上半身において,2刺激の位置関係がTRの生起に大きく関わることを心理物理実験により明らかにした.また,TRが一部の触錯覚現象によって生じる錯覚像に対しても生起することを心理物理実験により明らかにした.これらTRに関する研究は,サイエンス的な面での意義をもつほか,TRを鎮痒手法として応用する際の重要な指標を示したという点でも意義深い. 温度変化による圧覚の生起現象は,10℃程度の温度変化を皮膚に提示することで圧覚や吸い付くような感覚を生起する錯覚現象である.この錯覚の生起する条件についての検証を行った.特筆すべきは,この錯覚現象はこれまで知られていた現象ではなく,研究員自身が発見したものであるという点である.本現象は鎮痒手法としての応用の可能性を有するのみならず,現象の発見自体がサイエンス的な面で非常に大きな意義をもつ. 以上に挙げたように,本年度,本課題に深く関係する温度感覚について,これまで知られていなかった多くの性質を明らかにした.よって期待通りの研究の進展があったと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度までに検証した鎮痒手法の比較検討を行う。検討結果をまとめ、皮膚を損壊しない鎮痒手法についての基礎論文として論文誌投稿・採択を目指す。一方で複数の手法を組み合わせた統合的な鎮痒デバイスのプロトタイプの作成を行い、単独の手法を用いた場合との鎮痒効果の差を被験者実験により検証する。これら結果は逐次学会発表を行う。具体的には2件の国内学会、2件の国際学会での発表を目指す。また、鎮痒デバイスについて企業との共同開発を視野に入れ、パートナー企業について検討する。
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