研究課題/領域番号 |
14J11748
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
渡辺 亮 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 性質の解明 / 論文化 |
研究実績の概要 |
本課題の最終目標は副作用を伴わずに痒みを抑制する手法の確立である.本年度,本課題に関連した2つの研究を実施した.それぞれの概略と現在の実施状況について述べる. (1)触錯覚現象を用いたThermal referralの生起 一部の温度刺激は鎮痒効果を持つことが知られている.これら鎮痒効果を持つ温度刺激を広範囲に提示するための手法として温度錯覚現象Thermal Referral(略称TR)に着目した.TRとは,皮膚上の2つ以上の部位において温度刺激と触刺激が同時に提示されたとき,触刺激提示部位にも温度感覚が生じる錯覚現象である.通常TRでは実際に触覚を提示した部位に温度が知覚されるが,一方で触覚を提示していない部位に触覚像の生じる錯覚現象が知られている.そのような錯覚現象であるファントムセンセーション(以下PhS),跳躍現象のもたらす触覚像に対し,TRが生起することを被験者実験により確認した.この実験結果は現在までに対外発表を行っていなかったが,初年度から論文化,推敲作業を続け,現在論文誌に投稿中である. (2)温度変化による圧覚の生起現象 私は皮膚表面に静的に接触した温度素子から提示する温度を急速に上昇した際に掌が上方に押されるような感覚が,下降した際に掌が下方に吸い込まれるような感覚を生じる錯覚現象を発見し,その性質を研究してきた.本年度は,この錯覚現象を利用し,直立した人間の足裏に提示することによる地面の傾きや揺れの表現を試みた.被験者実験の結果,刺激温度の変化時に主観的な傾きの感覚が報告された.また,以上2つの研究のほか,初年度までに行ってきたローラー型鎮痒装置に関する研究結果をまとめ,現在論文誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終目標である副作用を伴わずに痒みを抑制する手法の確立のために,痒みと密接に関連する温度感覚に関する研究を行ってきた.その結果3件の国内発表を行い,2件の論文を投稿中である.初年度にはTRが一部の触錯覚現象によって生じる錯覚像に対しても生起することを心理物理実験により明らかにし,今年度はこの実験結果を論文化した. TRに関する研究は,サイエンス的な面での意義をもつほか,TRを鎮痒手法として応用する際の重要な指標を示したという点でも意義深いと考える.温度変化による触覚生起現象について特筆すべき点は,これまでに知られていた錯覚現象ではなく,自身が発見した現象という点である.今年度は本現象を足裏に提示した際の被験者の重心への影響を検証した.本現象は鎮痒手法としての応用の可能性を有するのみならず,現象の発見自体がサイエンス的な面で非常に大きな意義をもつと考える.
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今後の研究の推進方策 |
2年度目までに検証した諸錯覚現象の鎮痒手法としての効果を比較検討する.検討結果をまとめ,皮膚を損壊しない鎮痒手法についての基礎論文として論文誌投稿・採択を目指す.一方で複数の手法を組み合わせた総合的な鎮痒デバイスのプロトタイピングを行い,その鎮痒効果を被験者実験により検証する.これらの結果は逐次対外発表を行っていく.具体的には2件の国内学会,2件の国際学会での発表を目指す.
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