研究課題/領域番号 |
14J11771
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
梁 政寛 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 流況 / 分布型流出モデル / 魚類個体群 / ランダムフォレスト / ダム放流操作 |
研究実績の概要 |
淡水魚の保全を目的として、1.流量の変動性を考慮した河川の環境モデルを構築し、2.複数の魚類種の個体数変動に大きく影響を及ぼす要因を推定し、3.魚類の保全にとって有効なダム放流操作案を考案した。対象河川は神奈川県・山梨県をまたぐ相模川水系とした。
【1.河川環境のモデリング】河川における洪水・渇水などの流量変動(以降、「流況」)を推定可能なモデルを構築した。河川において特にどの地点の流況が改変されているのかを診断できるようになった。例えば、8月の流量と年間の高水発生回数は共に最大70%程度、自然状態から減少している区間がある。更に、改変度合いの空間パターンは、流況の性質によって異なることが分かった。 【2.魚類個体数のモデリング】構築した流況再現モデルを用いて、30魚種の個体数変動の予測モデル(ランダム・フォレスト)を作成した。結果として、流況が多くの種の個体数変動に影響を及ぼしていることが推定された。流況は年によって大きく異なり、それによって多くの魚類種が個体数を変動させる要因となっていることを現地データで実証した、貴重な知見である。また、特に8月の流量および、9-11月の洪水規模・頻度が魚類個体数変動に大きく影響することを示唆した。 【3.魚類保全のためのダム放流操作の考案】上記で得られた結果と魚類生態の知見に基づいて推論すると、8月の流量および秋期の洪水規模・頻度が影響する対象は、主に幼少期(稚魚段階)である可能性が高い。これは、相模川の多くの魚種の産卵期のピークが5-7月に集中していることから発想を得たものである。魚類保全を考慮した際のダム放流操作は、特に魚類の産卵期直後の流況を意識する必要があることが示唆できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案した研究計画におおむね従い、研究目的を簡略化した上で暫定的に達成した。目的はモデル構築に基づいて河川魚類保全のためのダム放流操作を提示することであり、産卵期直後の流況をなるべく自然に近づけるべき、という提案ができたという点では、達成していると言える。 しかし、この結果はあくまで統計による関係性の解析であり、因果関係を追及していない点に注意が必要である。稚魚段階に流況が与える要因は生息場・水質などと関連して色々推察される。しかし、種によっても影響は異なり、捕獲の難しい稚魚はその生態がほとんど分かっていないため、現在入手可能なデータではこれ以上の原因究明は困難である。そこで、稚魚は基本的に氾濫原で成育することに着目し、流況と生息場である氾濫原の動態を解析することが一番有益であると考えている(今後の展望)。 以上より、目的をおおむね達成しつつも、まだ課題は残されており、1年目で得られた手がかりから更に深い洞察を今後行う必要があることから、おおむね期待通りの成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度において、河川魚類の保全にとって重要な環境要因をどのように保全するか、またダム放流の操作を決定すべきかのおおまかな予想がついた。ただし、水温や生息場データが非常に限られた上での解析を行っているため、今後はこれらを妥当に推定するモデルを構築し、さらに河川環境を適切に再現することを目的とする。特に、稚魚の成育にとって、氾濫原が重要であることがわかっていることから、氾濫原の状態を適切に表現するモデルの構築が必要といえる。従って、来年度は、氾濫原に関する研究分野において世界的に見ても極めて先鋭的なスイスの国立水環境研究所に長期滞在し、そのモデル化および生物情報との関連付けを達成する予定である。また、今年度得られた知見に関しても随時国際誌へ投稿する予定である。
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