研究課題/領域番号 |
14J11840
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久澤 大夢 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 超合金 / 格子ミスフィット / 微細組織 / γ’相 / 鍛造 / Ni基合金 |
研究実績の概要 |
現代のエネルギー問題を緩和させるため、次世代エネルギーの開発と共に、現在最も重要な発電方法である火力発電の高効率化は非常に重要である。火力発電の高効率化は蒸気温度の高温化によって達成できることから、現在最も高温強度に優れるNi基合金の変形機構を理解することにより、石炭火力発電の高効率化と寿命予測技術へ貢献する。 本研究では組織形態に及ぼす機械加工・応力の影響を調査した。試料に応力を加えることで応力場を生じさせ、組織形態に及ぼすミスフィットの影響を考察した。材料中の応力場の存在は、γ’相の形状に影響を及ぼさないが、分布には影響を及ぼすこと、またη相の晶癖面の核生成頻度に影響を及ぼすことを明らかにした。 本研究の供試Ni基合金Inconel X-750では適切な熱処理を施すと、γ母相中に立方体状のγ’相が微細分散した組織を呈する。その条件である1173 K / 10 hの熱処理を24 MPaの引張の応力負荷をしながら施すと、析出するγ’相の粒子は引張り軸方向にもっとも近い<100>方位に隣接する傾向をもつ。これは弾性論的考察により析出物粒子が母相中に整合析出するとそのまわりに格子ミスフィットと負荷応力が相互作用して異方的な弾性ひずみ場が生じ、その弾性ひずみエネルギーの低減する範囲に優先的に核生成するためである。 また、本合金に高温である900℃の長時間の時効を施すと、金属間化合物であるη相が板状に析出する。η相の板の方向は母相との格子ミスフィットに起因するミスフィットひずみを含めた全ひずみが最小となる、応力軸と45°の角度をなす方向に分布する傾向があることを明らかにした。 これらの析出相の分布は全ひずみを低減させる形態である。また金属間化合物η相は非常に脆く、クリープ強度を低下させることが報告されているため、これらの析出形態の変化はクリープ強度を低下させることが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度ではNi基調合金の組織形態に及ぼす機械加工・応力の影響を調査することが目的である。このために試料に応力を加えることで応力場を生じさせ、組織形態に及ぼすミスフィットの影響を調査・考察した。 本研究の主な目的である調査は滞りなく行うことができ、材料中の応力場の存在は、γ’相の形状に影響を及ぼさないが、分布には影響を及ぼすこと、またη相の晶癖面の核生成頻度に影響を及ぼすことを明らかにすることができた。しかし、その定量的評価や、重大な影響を及ぼしていると予想される弾性論的議論は行うことができなかった。 このことから定性的な議論に留まっている問題があり、次年度の研究計画と平行して格子ミスフィットと組織形態の関係を明らかにする理論を構築することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に変形機構におよぼす弾性場の影響を調査する. 試料の組成を意図的に調整して溶製すれば,析出物に任意の格子定数を導入した試料を調整することができる.任意の格子定数を得ることは、母相との関連により任意の格子ひずみを導入することに相当するため、下記試験に供する格子ひずみの影響を考察することが可能になる。 組成の調整により任意の大きさの格子ひずみを得た試料に対し、適切な熱処理や加工を施し,さらに組織観察用,もしくは機械試験用の試験片として作成する.この試料を機械的試験や微視的組織観察に供することで、格子ひずみに由来する弾性場と微細組織および機械的性質との相互作用を考察する。組織観察は走査型電子顕微鏡で行い、機械的性質は試料の硬さ試験と圧延を通して考察する。 また,過度な析出物の格子ひずみを導入すると,その周囲には金属結晶の格子欠陥が導入されることが予測される。透過型の電子顕微鏡によりこれらの欠陥の直接観察も行い、格子ひずみによる格子欠陥の導入過程を考察する。格子欠陥の導入は微細組織の形成に重大な影響を及ぼし、材料の組織、ひいては機械的性質の劣化に繋がると考えられる。 このように格子ひずみの大きさを調整した試料の作成・観察をすることで、変形機構に及ぼす格子ひずみの影響を明らかにする。これを応用すれば、実際の使用環境において耐熱金属材料の微細組織や機械的性質がどのように変化・劣化していくかを予測することができる。
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