研究課題/領域番号 |
14J11883
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小坂 由貴 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 高分子合成 / アニオン重合 / 重合性 / ミクロ構造 |
研究実績の概要 |
1-メチレンインデン(MId)の精密重合と主鎖に金属高分子を含む新規高分子の合成に取り組んでいる。平成26年度は、MIdの炭化水素系溶媒中での重合についての結果をまとめ学会誌であるMacromolecular Symposiaに投稿し、10月に受理された。この論文では、MIdの重合をベンゼン中で行い、分子量分布が極めて狭く、設計値通りの分子量を有する一次構造の明確なポリ(MId)の合成に成功したことを報告している。また、同一のモノマーを逐次的に添加し、リビングポリマーの安定性を評価したところ、MIdの重合はリビング性を有することが明らかとなった。以上の結果から、MIdは工業的にも幅広く用いられている炭化水素系溶媒中で精密重合が可能なことが明らかとなり、本研究課題である1-メチレンインデン(MId)の精密重合が達成できる条件の1つを見つけることに成功した。 また、交付申請書の研究実施計画に則り平成26年6月から12月までフランスのボルドーにあるLCPOという研究機関で研究留学を行った。エポキシモノマー類のアニオン開環重合で著名なStephane Carlotti教授に師事し、MIdをエポキシモノマーに展開し、ガラス転移温度の高いポリエーテルの合成を目指した。しかし、エポキシモノマーの合成が予想以上に困難であり、また時間が限られていたことから、テーマを途中で変更し、MIdとエチレンオキシド(EO)のブロック共重合体を合成することにした。ポリ(MId)を含む両親媒性ブロック共重合体はこれまで報告されていなかったので、PEOセグメントを導入したことによるポリ(MId)の諸物性の変化を観察する事とした。いくつかのモデル反応を経て、最終的に目的としていた新規ブロック共重合体の合成に成功した。このブロック共重合体は大部分の溶媒に溶解性を示し、PEOの導入効果が確認出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は2本柱で進めており、1つがポリ(MId)のミクロ構造制御、もう1つが有機金属錯体を結合点に用いた高分子の合成である。1つめのミクロ構造制御に関しては計画通り進んでいる。これまでの研究でポリ(MId)のミクロ構造は1,2付加体と1,4付加体の混合体であることがわかっている。次に、重合溶媒や開始剤の対カチオンを変化させたり添加剤を加えてMIdの重合を行い、得られたポリマーのミクロ構造を解析したところ、全体的に目立った変化は見られなかった。しかし、重合温度を変えて重合を行ったところ、ポリ(MId)のミクロ構造は大きく変化し、高温であるほど1,4付加体の含有量が増えることを見出した。また、計算化学の先生と共同研究し、構造的にも1,4構造が最安定構造であることが明らかとなった。ただ、一般的に、ポリマーのミクロ構造は低温で重合するほど、均一になる傾向にあるので、ポリ(MId)のように高温で重合するほどどちらか一方に偏る例は珍しく、今後より詳しく検証してゆく。 もう1つの有機金属錯体を結合点に用いた高分子の合成は滞っている。研究計画にある通り、ポリ(MId)の活性末端アニオンと二価の塩化鉄との反応条件を検討している。すでにポリ(MId)の分子量、塩化鉄を加える量、反応時間を変えて重合を行っており、反応後のGPCを見る限り何らかの反応が起こっている事は確認出来ているのだが、ポリマー鎖中にメタロセン構造が導入された確証を得られていない。高分子同士の反応は、結合点がポリマー鎖全体に対して小さく、NMR等で反応の進行を確認することが難しいことがあるので、まずは低分子を用いてメタロセン構造の同定法を確立する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ポリ(MId)のミクロ構造については、重合メカニズムについてシミュレーション計算により詳細に検討し、その結果を参考にして実験的にもミクロ構造制御を達成したい。ポリ(MId)の応用について考えると、ポリマー鎖中に残った二重結合が問題となる。一般的に、高分子鎖に二重結合が残っていると空気などによって酸化される恐れがあり材料として適さないので、二重結合に対し水素添加し、脂肪族に変換する。以前に、ポリ(MId)の水素添加反応を試みたことはあるが、反応は進行するものの、同時に主鎖の切断も確認された。この現象は塩基を用いた場合と、遷移金属触媒を用いた場合の両方で起こり、1,4付加体に含まれる酸性プロトンが引き抜かれ、解重合が進行していると予想している。1,2付加体であれば酸性プロトンが含まれないので、ミクロ構造制御を達成することにより1,2付加体に富んだポリマーを合成し、その後の水素添加反応まで行いたいと考えている。 有機金属錯体を結合点に用いた高分子の合成については、研究計画にある通り、低分子の1,1-ジメチルフルベン(DMF)と塩化鉄の反応を先に検討する。まず、スチレンのオリゴマーを合成し、スチレンのリビングアニオンとDMFを反応させる。そこで、分子中のメタロセン構造の形成を目指し、かつ測定法も確立する。スチレンオリゴマーで反応の進行が確認できたら、ポリスチレンの分子量を徐々に大きくしてゆき、目的とする有機金属錯体を結合点に用いたポリスチレンの合成に挑戦する。高分子の場合でも、メタロセン構造を定量的に確認できる手法を見出すことができれば、これまで取り組んできたポリ(MId)の活性末端アニオンと塩化鉄の反応に戻り、主鎖にメタロセン構造を含む新規ポリ(MId)の合成を試みる。
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