研究課題/領域番号 |
14J11899
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
上田 翔士 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 流体計算 / 粒子法 / 初期地球(冥王代) / 隕石重爆撃 / 大気散逸 / 海散逸 / 生命起源 / 地球表層環境 |
研究実績の概要 |
当該研究の目的は、1. 小天体が岩石や海に衝突した際に惑星外へ散逸する大気、衝突表面物質、衝突天体物質の質量を数値計算により明らかにする、2. 結果を定式化し、3. 地球上に生命が誕生したとされる時代である冥王代(特に、後期隕石重爆撃)において、小天体衝突による水量の変化を定量的に議論する、4. 地球の生命起源へ影響を及ぼした可能性のある衝突起因の表層環境の変化を探る、である。 今年度、報告者は1.を達成するために世界的にも新しい流体計算コード(SPHコード;流体が質量の広がりをもつ粒子から出来ていると考えて流体を計算する手法)を自ら書き上げ本研究の衝突計算が可能なよう改良を行った。本コードは新しく開発されたスキームであり発展途上であるため、コードを実用化するためにチューニングなどに尽力した。 また、報告者はSPHコードを改良していく上で、流体の密度差の新たな表現方法の可能性を発見した。具体的には、従来のSPHコードでは、流体の密度差を「粒子一つ一つの質量は等しいとし、粒子の数密度を変化させて表現する」という方法が用いられてきた。この方法では大きな密度差のある流体(大気と陸、大気と海)を表現する際には密度が大きな領域に大量の粒子をつぎ込むため、計算量が膨大となってしまうという問題があった。報告者は新たに密度差を「粒子の数密度は等しくし、粒子の質量自体を変化させる」という方法を考案し、この方法が可能であることをテスト計算等で確かめた。密度差2000倍ほどある大気と陸を表現する際に、新たな方法では従来の方法の2000分の1以下の計算となるため、この結果は非常に意義のあるものである。 上記の新しい密度差の表現方法により、大気ー陸、大気ー海ー陸への衝突計算が可能となり、報告者は小天体衝突によりどの程度大気や海の量が散逸するのか、数値シミュレーションで明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該研究の目的は、1. 小天体が岩石や海に衝突した際に惑星外へ散逸する大気、衝突表面物質、衝突天体物質の質量を数値計算により明らかにする、2. 結果を定式化し、3. 地球上に生命が誕生したとされる時代である冥王代(特に、後期隕石重爆撃)において、小天体衝突による水量の変化を定量的に議論する、4. 地球の生命起源へ影響を及ぼした可能性のある衝突起因の表層環境の変化を探る、である。 今年度は目的の1.,2.について具体的に、「衝突表面を岩石または液体の水とし、小天体の物質(岩石、氷)、小天体の直径、衝突速度、衝突角度、大気圧をパラメータとしてふり、小天体を衝突表面へ衝突させ、大気や衝突表面物質や衝突天体物質の惑星外への散逸量を数値計算することが出来るよう新しい流体計算コードを完成させる。結果をフィッティング関数として定式化することを試みる。」という研究実施計画であった。 今年度、報告者は1.を達成するために世界的にも新しい流体計算コードを自ら書き上げ本研究の衝突計算が可能なよう改良を行った。本コードは新しく開発されたスキームであり発展途上であるため、報告者はコードを実用化するためのチューニングなどに尽力した。また、「研究実績の概要」に記述したように、報告者は流体計算コードを改良していく上で、流体の密度差の新たな表現方法を発見した。これにより大気ー陸、大気ー海への衝突計算が可能となり、上記のように複数のパラメータを幅広くふることで、大気や海や衝突天体物質の惑星外への散逸量を計算することが出来るコードを作成した。 報告者は現在目的2.である、小天体衝突によりどの程度大気や海の量が散逸するのか数値シミュレーションし、結果をフィッティング関数として定式化することに取り組んでいる最中である。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究の目的は、1. 小天体が岩石や海に衝突した際に惑星外へ散逸する大気、衝突表面物質、衝突天体物質の質量を数値計算により明らかにする、2. 結果を定式化し、3. 地球上に生命が誕生したとされる時代である冥王代(特に、後期隕石重爆撃)において、小天体衝突による水量の変化を定量的に議論する、4. 地球の生命起源へ影響を及ぼした可能性のある衝突起因の表層環境の変化を探る、である。 今後は、まず目的2.である、小天体衝突によりどの程度大気や海の量が散逸するのか数値シミュレーションし、結果をフィッティング関数として定式化することに取り組む。これにより小天体が岩石や海に衝突した場合の惑星表面の水量変化を計算することが出来るため、次に目的3.である「各年代の衝突天体フラックスと現在の水量のデータを用いて、地球上に生命が誕生したとされる時代である冥王代での小天体衝突による水量変化を解き明かす」ことに取り組む。 27年度は、初期地球の小天体衝突頻度に精通しているA. Morbidelli氏、惑星大気、内部構造、熱進化を専門とするT. Guillot氏、報告者と同様の流体計算コードを使った衝突シミュレーションを行なっているP. Michel氏など、本研究に関連し顕著な業績をあげている研究者が集まっているフランス・コートダジュール天文台に長期滞在する予定であり、所属研究機関の研究者のみならず国外の研究者から多角的に助言を頂きつつ、目的の2.、3.を達成し研究をさらに発展させる予定である。
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