研究課題/領域番号 |
14J11908
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宮内 敦史 東京工業大学, 大学院社会理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / コミュニティ検出 / アルゴリズム / 数理計画法 / 組合せ最適化 |
研究実績の概要 |
平成 27 年度においては,本研究課題の進展に寄与する二つの成果を得た.
一つ目は,コミュニティ検出の評価関数についての成果である.コミュニティ検出で用いられる評価関数は,「頂点集合の分割を引数とするもの」と「頂点部分集合を引数とするもの」に大きく分けられる.前者としては,「モジュラリティ」という評価関数が広く知られており,様々な応用の場面で利用されてきた.その一方で,後者の評価関数については,これまでに様々なものが提案されてきたが,標準的な関数として定着しているものは存在しない.本研究では,頂点部分集合に対する評価関数として,「コミュニチュード」なる関数を提案した.コミュニチュードの検出性能を評価するため,その最大化問題を定式化し,それに対する線形時間ヒューリスティックを設計した.最後に,人工ネットワークと実ネットワークを用いて,コミュニチュードと提案アルゴリズムの性能を詳しく評価した.
二つ目は,コミュニティ検出のアルゴリズムに関する成果である.コミュニティ検出は,上で述べたモジュラリティという評価関数を使って,モジュラリティ最大化問題としてモデル化されることが多い.モジュラリティ最大化問題は NP 困難であり,これまでに数多くの発見的解法が提案されてきたが,理論的な精度保証を持つアルゴリズムはほとんど提案されてこなかった.近年,このような問題点を解決するため,モジュラリティ最大化問題に対する精度保証付き近似解法の設計が注目されている.本研究では,モジュラリティ最大化問題に対する新たな精度保証付き近似解法を設計した.提案解法は,既存解法の精度保証を大きく改善しており,性質の良いネットワークに対してほぼ最適な解を得ることができる.また,いくつかの関連する問題に対して,提案解法を拡張することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は,大規模ネットワークに対する超高精度なコミュニティ検出法を構築することである.最適化の技術でこれを実現するには,好ましい性質を持った評価関数を用意することと,その評価関数の意味で最適なコミュニティ構造を得るアルゴリズムを設計することが必要である.
評価関数については,現在までに大きく二つの成果が得られている.一つは,頂点集合の分割に対する新たな評価関数「Z-モジュラリティ」の提案である.そしてもう一つは,頂点部分集合に対する新たな評価関数「コミュニチュード」の提案である.Z-モジュラリティは,標準的な評価関数として定着している「モジュラリティ」の問題点を指摘することで設計した.また,コミュニチュードは,Z-モジュラリティのアイデアをもとにして設計した.どちらの評価関数についても,その最大化によって高精度にコミュニティ構造が検出されることを確認している.これらの研究成果は,査読付き論文および査読付き会議録にすでに採録されている.コミュニティ検出のアルゴリズムの設計に関しては,モジュラリティ最大化問題に対して大きな成果を得ている.モジュラリティ最大化問題はコミュニティ検出のモデル化として広く知られており,本研究課題の主な研究対象の一つである.これまでに数多くの発見的解法が提案されてきたものの,理論的な精度保証を持つアルゴリズムはほとんど提案されてこなかった.本研究の成果は,モジュラリティ最大化問題に対する新たな精度保証付き近似解法の提案である.提案解法は,既存解法の精度保証を大きく改善しており,性質の良いネットワークに対してほぼ最適な解を得ることができる.
以上の通り,本研究課題の解決に必要な二つの側面のそれぞれについて,現在までに大きな成果が得られている.したがって,当初の計画以上に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の達成に向けて,必要な研究成果はほぼ出揃っていると認識している.その上で,より高いレベルでの達成を目標として,今後の研究を進めていく.
具体的には,これまでに提案してきた「Z-モジュラリティ」や「コミュニチュード」などの評価関数について,それらの性質をより詳しく解析したい.「なぜそれらの評価関数では高精度にコミュニティ構造を検出できるのか」を解析することで,コミュニティ検出に関する理解を深められる可能性がある.さらに,これまでに提案したモジュラリティ最大化問題に対する精度保証付き近似解法について,その精度保証を改善したい.解析のみの改良では精度保証を改善できないことが確認されているため,アルゴリズムの改良が不可欠である.
本研究課題の推進によって有意義な成果を得るためには,複雑ネットワークや関連する分野において,そこで期待されている成果を正しく把握しておく必要がある.複雑ネットワークの研究は欧米の研究者を中心に行われているため,そのような研究者と多くの議論ができる国際会議に参加することが非常に重要である.昨年度は 3 つの国際会議に参加して,実際に有意義な議論を行うことができた.今後もこのような姿勢を継続していきたいと考えている.
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